*Only winner* (ページ5)

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『……あれ、翔平』

「お疲れ。一応、挨拶」

『ああ、うん』

後輩グループTHE RAMPAGEの浦川翔平。
そういえばダンス対決のほうに出るんだったな、と顔を見て思い出した。

「今日、よろしく」

『よろしく。って言っても、スタジオで会うことないと思うけどね』

「まあ、同じ事務所だし、一応」

いつもの威勢の良さはどこへやら、ひどく緊張した様子の翔平。

『……ちょっと寄ってく？』

「え、」

『今、マネージャー居ないの。
暇だから話し相手になってよ』

「……じゃあ、少しだけ」

楽屋に招き入れ、さっきまでマネージャーが居た席に翔平を座らせた。

翔平と話している間に沸いたお湯をカップに注いでティーバッグを放り込む。
砂糖いる？って聞いたらいらないって言われたから、自分のカップにだけ多めにお砂糖を入れて、翔平の分はそのまま出した。

翔平の表情はガチガチに強ばっている。

『こんな真面目な顔した翔平、久しぶりに見た』

「……Aは緊張してねえの？」

『してないんだよね、これが』

「ええ、マジかよお……。Aも絶対緊張してるだろうから、励まし合おうと思ったのに……」

『期待に添えなくて申し訳ない』

「いや別にAは悪くないけど……はあああ」

胸いっぱいに吸い込んだ息を吐き出すように大きな溜息をついた翔平は、そのまま机に上半身を預けるようにベターッと倒れ込んだ。

人というのは不思議なもので、自分以上に緊張している他人の姿を見ると、却って冷静な気持ちになる。
まあ、私の場合はそもそも自分自身が緊張など欠片もしてないから、最初からわりと冷静なのだけど。

『大丈夫でしょ、翔平なら』

「いやあ、こればっかりは分からん……相手が強すぎて、正直勝てる自信無いわ……」

『いいじゃんべつに。
勝っても負けても、所詮テレビの企画だよ』

その一言に、翔平は項垂れながら恨めしそうな視線だけをこっちに向けてくる。

「おま、そういう身も蓋も無いこと言う～……」

『そんなガチガチに緊張してナーバスになるほどのもんじゃないっていう意味で言ってんの』

「……そうなんだろうけどさあ、事務所とかグループの名前背負って出る以上、負けたくないじゃん」

机の上、開かれていた手のひらをグッと握り込んで、翔平はそう呟いた。

名前を、背負っている。

私たちは、会社も、グループも、他にもたくさんのものを背負って、今、ここに居る。

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