短編集 (ページ2)

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あなたがすきページ2

あなたはいつも窓際で本を読んでいる。
今日は夏目漱石の本みたいだ。
楽しそうにする訳でもなく、ただ仏頂面で本を読み進める。

その日は制服が背中にぺったり張り付いてしまうほど汗ばむ陽気だった。
夏目漱石は人物の気持ちを皮肉気味に描く表現が好きだ。
窓際から野球部の掛け声が聞こえるこの窓際が好きだ。

あなたは今日は居なかった。
昨日は元気そうだったのに。
あなたの家に行ってみようか。

家で本を読むことも好きだ。
掛け声は聞こえないけれど、いつもある視線を感じることがないから。
静寂の中で、いつの間にか自分が溶けて無くなってしまうみたいだから。

右に曲がって、裏道を回る。
随分分かりにくい道も、何度も来てしまうから身体が覚えてしまった。

1人で本を読むことは好きだ。
でも、友達と好きな本の話をすることも好きだ。

別にあなたが好きな訳じゃない。

俺はお前が嫌いだ。

こんな良い天気の日は、
ローズマリーティーでも飲みながら
さんぽでもしようか。
れんが造りの家を抜けたら
るり色の花が咲いている。

にこにこしている貴方が好き。
がむしゃらに頑張る貴方が好き。
さいきん冷たいけれど。
なまえから、存在まで貴方が好き。
いつまでも一緒に居てね。

あなたがすき、きらい。

窓際の空いた席には、少し埃を被った夏目漱石の本が外を眺めていた。