いつもの君 ページ15
向けられる視線に気づいたのか、彼はちらりとこちらを見た。
「どうかしたか？」
「いやっ、なんでもないです」
ピシッと背中を伸ばして正面に向き直す。
「そうか？」と身を乗り出しそうな様子に焦ったが、信号のおかげで打ち切りになった。
再び沈黙の中に放り投げられる。
早く家に着け〜、と思っていたら見慣れた風景が視界に入る。
家の近くになったら降ろしてもらえば良いよね。
荷物を抱えて、早く帰りたい、と心の中でつぶいた。
「そういえば、こうやって二人で会うのは久しぶりだな」
彼が懐かしそうに目を細める。
その瞳はまるで学生時代のアルバムを見返しているようだった。
今は零くんかな？
心穏やかに返事をした。
「ほぼ一年ぶりだもんね……ﾊｯ」
しまった、と勢いよく零くんを見ると彼は意地悪な顔をしてため息をついた。
「そうだな。だれかさんが一年も渡米していて探すにも探せなかったからな」
「さがすにも」
「で、そこで何をしていたんだ？」
零くんが食い気味に聞いてくるのは、私のアメリカでの思い出話を聞きたいのか、それとも何かしらの疑いをかけられているのだろうか。
私は零くんの目を見てはっきりと言った。
「ただの仕事だよ。女性の働き方改革の企画で、
一年間アメリカンスタイルでお仕事しただけ」
「ホー……」
「本当だってば」
それでもジト目で見てくる零くんに拗ねたふりをしたら、すぐに「冗談だ、信じるよ」と優しく笑う。
ああ、やっぱり落ち着く。
話を聞いてくれる姿勢も、相槌も、柔らかな声も。
好きになっちゃいそうだ。
私は調子にのって会社や普段の生活であったことを、心を躍らせながら話した。
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作者名：榊 リョウ | 作成日時：2019年8月13日 19時
