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ハムサンドは瞬く間にやってきた。零くんは「お待たせしました」とスマイルまで添えてくれて、ハムサンドを机に置いたあともその場に留まり続ける。食べにくいなと思うも、子犬のようにきらきらした目で見つめられれば、文句など言えるはずもなく。
ハムサンドを手に取り、一口分を口に含む。
びっくりしたのは歯を立てた瞬間。パンが何の抵抗もなく噛み切れたと思ったら、程よい弾力が歯を刺激した。そして口の中に優しく馴染んでいくハムに、シャキシャキと瑞々しいレタス。味噌マヨネーズはわずかな酸味を感じさせ、余韻を残して消えていった。くどくないが、しっかり味が残る。食べ終えたらもう一個、と手を伸ばしたくなる美味しさだ。
「んっっっっまぁ……! さすが透くん、天才」
「よかったです。なんだか緊張してしまいました、先生に食べてもらうなんて」
「"先生"? ……もしかして、Aお姉さんがこのハムサンドの創作者?」
「ちがうよ、透くんに教わったやり方を透くんに教えただけ」
零くんの頭上にはてなが浮かび、コナンくんは「ああ、また例のはぐらかし方ね……」と半笑いする。おかしいな、あたしは事実しか伝えていないのに、信じてもらえない。信じてもらおうと思ってないのが一番の原因なのだろうが。
あたしがつくったハムサンドとは違う、零くんの味のハムサンド。つくり方は同じはずなのに、あたしのより美味しいのがちょっと口惜しくて、やっぱり本家は違うのかと思いながらそれを尋ねてみる。すると、零くんはコナンくんと顔を見合わせて、照れ臭そうに笑った。
「それはやっぱりアレじゃない?」
「アレ?」
「……愛情。たっぷり込める、って宣言しましたからね」
目線を斜め上に投げて鼻を掻く零くんが愛おしくて、きゅうう、と胸が詰まる。なんだこのかわいさは、二十九になっても健在なのか。
あ、二十九と言えば。
「こっちではあれから十五年経ったみたいだけど、あっちじゃ二週間しか経ってないんだよね」
「ああ、やっぱり。容姿が変わらないなあとは思ったんです。今も二十五ですか?」
「そう。透くんのほうが年上になっちゃったねえ」
二人にしかわからない会話を繰り広げると、コナンくんは理解できずに首を傾げる。いつかわかるといいねと心の中で語りかけ、ナイショ、って人差し指をゆるく弧を描く口許に当てた。
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えりんぎ苺(プロフ) - よるさん» レス遅れて申し訳ありません、気づきませんでした……! 主人公をできるだけフツーの女の子にしたかったので、それが伝わって嬉しいです。十四才零くんとのやり取り書き足りないんですよね(笑) 完結させて頂きありがとうございます。コメントありがとうございました! (2020年6月14日 18時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ちょっと文字数が足りなかったので…完結お疲れ様でした! (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
よる - めっちゃ面白かったです!とくに主人公が凄く個性が強いわけでもなく、普通の人って感じがしてとても共感するし、読みやすかったです!(語彙力少なめなので伝わってると嬉しいです) 14歳の零くんと主人公のやりとりが鮮明にわかり微笑ましい気持ちになりました笑 (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎ苺(プロフ) - ゆるり。さん» 寂しく思ってくださるなんて……! 繊細で優しい書き方だなんて初めて言われました。すごく嬉しいです。こちらこそご愛読いただきありがとうございました。ぜひぜひ次もお付き合いください。コメントありがとうございました! (2020年5月31日 8時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
ゆるり。(プロフ) - 完結おめでとうございます!この作品が更新されるのが楽しみで楽しみで、完結してしまったのが寂しいくらいです…。繊細で優しい書き方で、とてもわくわくしました。素敵な作品をありがとうございました!次も付いていきます! (2020年5月31日 7時) (レス) id: f1881e43ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ苺 | 作成日時:2020年5月25日 21時