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いつだったか、彼女にお酒を呑まない理由を訊いてみたこともあった。
彼女は好きなお酒を我慢していると言った。そこにタイミングよく同窓会のお誘いが来て、絶対に参加するよう言うと、彼女は心底嫌そうな顔で参加すると言った。
勧めなければよかった。
僕はその日、彼女は同窓会で楽しんでいるかなあ、なんて考えながら勉強で時間をつぶしていた。夜の十時を過ぎたころ、ざあざあと雨が降り出して、どうしようもなく不安に思えて、泣きたい心を抑えながら外で彼女を待った。
待てども待てども彼女は来なくて、帰ってきたのは十一時だった。一時間も冬の雨の中彼女を待った僕の身体はかなり冷えていたけれど、彼女も負けていなかった。いつもはあたたかい彼女の手が指先まで冷たくて。
泣いている彼女を見て、僕は笑わせたいと思った。
でもどうすればいいかわからなくて、悩みに悩んで思いついたのは「おかえり」だった。何を言ってるんだろう僕は……と呆れたが、彼女は目を潤ませて「ただいま」と笑った。
雨に打たれながらぎゅうぎゅう抱きしめ合った。二人とも身体は芯まで冷えていたが、彼女と抱きしめ合っていたらだんだんあたたかくなってきて、このとき僕は初めて彼女をおひさまのようだと思った。雨で冷えた心をあたためるのは、いつだっておひさまだなあ、って。
彼女は何も言わなかった。だから僕も、何も聞かなかった。
翌日彼女は風邪を引いた。いつもは余裕な彼女が、その日だけはいっぱい甘えてくれて、僕はすごくうれしくて……ずっとつきっきりで看病した。
僕がギターを弾いたとき、彼女は興奮した様子で僕を褒めた。ヒロのことを話してやると、ヒロのことも褒めた。ちょっとだけ嫉妬した。でも彼女は僕の機嫌を直すプロだ。喧嘩っ早い性格を同じだと笑うセンスはどうなのか、と思ったが、おそろいはすごくうれしくて、悪くないなって思ったんだっけ。
彼女が教えてくれたやんちゃは警察学校時代に全部やった。おかげで一個下の代は規律が無茶苦茶厳しかったようだが。
彼女がつくったご飯を食べる僕を、愛おしそうに見つめてくれる。
夢中で食べていると、「おいし?」って訊いてくる。
ぎゅってすると、あたたかさをくれる。
彼女を忘れることは、彼女と別れてから十五年間、一度もなかった。
だからゼロだというのに僕は、いつまでも
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えりんぎ苺(プロフ) - よるさん» レス遅れて申し訳ありません、気づきませんでした……! 主人公をできるだけフツーの女の子にしたかったので、それが伝わって嬉しいです。十四才零くんとのやり取り書き足りないんですよね(笑) 完結させて頂きありがとうございます。コメントありがとうございました! (2020年6月14日 18時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ちょっと文字数が足りなかったので…完結お疲れ様でした! (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
よる - めっちゃ面白かったです!とくに主人公が凄く個性が強いわけでもなく、普通の人って感じがしてとても共感するし、読みやすかったです!(語彙力少なめなので伝わってると嬉しいです) 14歳の零くんと主人公のやりとりが鮮明にわかり微笑ましい気持ちになりました笑 (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎ苺(プロフ) - ゆるり。さん» 寂しく思ってくださるなんて……! 繊細で優しい書き方だなんて初めて言われました。すごく嬉しいです。こちらこそご愛読いただきありがとうございました。ぜひぜひ次もお付き合いください。コメントありがとうございました! (2020年5月31日 8時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
ゆるり。(プロフ) - 完結おめでとうございます!この作品が更新されるのが楽しみで楽しみで、完結してしまったのが寂しいくらいです…。繊細で優しい書き方で、とてもわくわくしました。素敵な作品をありがとうございました!次も付いていきます! (2020年5月31日 7時) (レス) id: f1881e43ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ苺 | 作成日時:2020年5月25日 21時