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できあがったバーボンを持ち上げて、光に透かしてみたり、ぐるぐる回してみたりする。口をつける気分にもなれず、そのまま帰る気分にもなれず。
マスターは店を閉め掃除をして、あたしをそっとしておいてくれる。本当にいい人だ。あたしのBFFさいこう。BFFって思っているのはあたしだけかもしれないが。
「ねえマスター」
「なんでしょう」
「十一才差ってアリだと思う?」
「わたしの古い友人に、十五才差で結婚した人がいますよ」
「おおすっげ。でも年上が早くに死んじゃって寂しい思いしそうじゃない?」
「三年後、追いかけるようにして亡くなりました」
「あらら……」
不謹慎だけど、それくらいだと幸せかもな。いや零くんと結婚したいってわけじゃないけど。
バーボンをカウンターに置き、椅子でぐるぐる回った。お行儀悪くて普段なら絶対しないが、なんか今はしたくなった。子供に戻った気分だ。若返りたいなあ、十一才くらい。
止まって、カウンターに突っ伏す。零くんの存在大きいな。まあかわいかったからなあ、零くん。目に入れても痛くないくらいにはかわいかった。
結局バーボンに口をつけないまま、スマホが着信を告げる。画面に表示されているのは実家に住む弟の名前だった。
「もしもし、Aですけど」
『姉さん? 突然ごめん、今大丈夫だった?』
「だいじょぶ。何かあったの」
時間は十一時を過ぎたくらいで、優等生な弟なら絶対にかけてこない時間だった。そこからも嫌な感じがする。何か、大変なことが起こったような。
『落ち着いて聞いてね。父さんが倒れた』
「…………は?」
『長い間病気隠してたみたいで、危ない状況なんだ。とにかく明日帰ってきて』
「わかった。つーかすぐ行くわ」
ぶちりと容赦なく通話を切り、財布から千円札を取り出してカウンターに置く。荷物を引っ掴み、マスターに「ごちそうさま!」と叫んだ。
「ごちそうさまも何も、一口も呑んでいないのに千円もいただけません」
「いーから、愚痴聞いてくれたお礼ってことで! それにあたしまたしばらく呑みに来れないの」
「そうなんですか? 寂しくなりますね」
「ごめんなさい、あの子が二十歳になるまで禁酒するって約束したの忘れてた」
そう言ってちろりと舌を出してみせると、マスターはおやおやと言いながら呆れたように腕を組んだ。
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えりんぎ苺(プロフ) - バッグ・クロージャーさん» 面白いと言っていただけて嬉しいです……! 楽しみにしていただいているので、更新頑張らなくっちゃですね。コメントありがとうございました! (2020年5月25日 16時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎ苺(プロフ) - ひかりさん» 面白いと言っていただけて嬉しいです。すぐに反応していただけるとは……わたしは幸せ者ですね! 更新頑張ります。コメントありがとうございました! (2020年5月25日 16時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
バッグ・クロージャー(プロフ) - すっごく面白かったです!更新楽しみにしてます! (2020年5月25日 16時) (レス) id: 09ffad4c5f (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - めちゃ面白いです!さっき更新された話もまじ良かったです! 更新待ってますっ!! (2020年5月25日 16時) (レス) id: 2b9098a683 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎ苺(プロフ) - サクラさん» 面白いだなんて、すっごく嬉しいです! 零くん視点の予定はなかったのですが、もしお待ちいただけるのなら、完結後に番外編として書かせていただきたいのですが、よろしいでしょうか? コメントありがとうございました! (2020年5月25日 13時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ苺 | 作成日時:2020年5月21日 19時