02 安室side ページ3
その日は組織からの命令で、久しぶりに一人、殺していた。
いや、正確に言えば殺したのはベルモットだったが、それを見ていた自分も同罪だ。
国民を守る警察官としての葛藤は、いつになっても消えることはない。
国のため、全国民のためならば、少数の犠牲は「仕方がない」ことなのか。
はあ、と深くため息をついたちょうどその時、微かにだが銃声が聞こえた。
間違いない、聞き慣れた音だった。
車の中まで聞こえるということは、そこまで遠いわけではない。
向かうべきか、無視するべきか……
その時の僕は、徹夜続きで疲れていたのかもしれない。
でなければ「見るだけ」なんていう中途半端な愚行は侵さなかっただろうから。
・
現場は住宅街の外れ。
まさかこんなところで銃を撃つとは思えないような場所だった。
比較的広い道路の端に車を止め、地面に残った血の跡を辿る。
(この出血量だと、もう……)
それでも血液がまだ乾ききっていないことに一抹の希望を抱き、少し足早に跡を辿る。
パァンッ
今度こそ、大きな音で、はっきりと銃声が聞こえた。
すると、少し行ったところの家の影が、ゆらりと揺れた。
……人？
トサ、とかすかな音をたてて倒れたのは、きっと女性。
一応周囲を見渡してスナイパーを確認するが、気配はない。
これ以上様子を伺っているほど時間の余裕がないのは、彼女の出血量を見れば一目瞭然だった。
思い切って彼女に駆け寄ってみると、あまりの惨状に息を飲む。
利き腕であろう右腕は撃ち抜かれ、歩けないように左脚には二発打ち込まれている。
「っ……これは、ひどいな……」
思わず眉をひそめるも、すぐに我に帰り彼女を車まで運ぶ。
彼女を回収するために、きっとスナイパーはここへ向かっている。
見て見ぬ振りは、できなかった。
一般人は銃などとは無縁であるはずで、であれば病院へ運ぶのは得策ではない。
必然的に向かう場所は限られ、家にあるものでの応急処置を考えた。
人を殺した後だったからだろうか。
ほんの少し弱い気持ちが顔を出す。
彼女を助けたい、という心の中の思いは、
自分が弱くなってしまったみたいで、
自分が誰かを必要としているようで、
認めるのが嫌で気づかないふりをした。
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作者名：海鈴 | 作成日時：2018年5月15日 11時
