035 答えられない ページ36
「こんばんは、陸くん」
「花音さん！」
台風の中決行した新曲の発表ライブ、2時間歌い通した陸くんは発作を起こして病院に送られた。発作が収まり寮へ戻ってきたことを聞いたわたしは、彼の元へ足を運んでいた。
「体調、大丈夫？」
「はい。ありがとうございます。それと、無茶してすみませんでした…」
「………」
「約束、守れなくてすみませんでした…」
「…陸くんは悪くないよ。悪いのはわたし。紡ちゃんと一織くんにも、なんで相談してくれなかったんですかって怒られちゃった」
「そんな！花音さんは何も！」
「いいの。わたしが悪いってことにしといて」
一織くんと病院へ付いていった紡ちゃんが陸くんの発作をメンバーにした時、わたしは2人に聞かれた。本当は花音さんは気付いていたんじゃないんですかって。その通りだと答えたら、2人に相談しなかったことや陸くんに無茶させたことを怒られた。あまりの剣幕に2人に対して初めて恐怖を抱いた。4つ以上も歳も離れている子たちに臆するなんてと屈辱的にはなったが本当に怖かった。
わたしが悪いって自覚はある。あの時、ちゃんとみんなに相談すれば良かったのだから。
「…でも、みんな言わなかったでしょ？」
「え？」
「やめろなんて」
「…はい」
「君がいるIDOLiSH7はすごく良いグループだよ。陸くんがセンターであることをみんなが認めて、7人であることを大切に思っているんだから」
「はい」
「陸くん1人で天くんを超えられなくても、IDOLiSH7でだったらきっとTRIGGERも超えることできるよ」
「ありがとう、ございます…。あの花音さん」
「ん？」
「花音さんと天にぃって、どういう関係なんですか？」
「………」
「大和さんが言ってました。花音さんが天にぃと親しげだったって。あの、天にぃオレのこととか家族のこととかなんか言ってませんでしたか！？」
九条天の実の弟である七瀬陸。
わたしは陸くんの気持ちをとてもよく理解出来た。わたしにももう十何年もずっと会えていない人がいる。もしもあの人と、いま誰かが会っていのなら彼はわたしのことをなんか言っていたかと絶対に尋ねていると思うから。
「…ごめんね。わたし、もう行くね」
「花音さん！」
「大声出したら体に響いちゃうよ。ちゃんと安静にして、元気にまたレッスンに来てね」
「………」
「じゃあお大事に」
ーーーでも、答えられなかった。わたしにとって陸くんも天くんも、大切な人だからこそ、答えられなかった。
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作者名：深瀬 | 作成日時：2019年3月22日 22時
