【アイナナ】ココロの歌 (ページ34)

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033 知らないページ34

「陸に伝えて。甘えた覚悟で、こちら側に足を踏み入れないで」
「………」
「真剣にやってるボクたちの迷惑だから」

そう言い放った天に、紡も大和も何も言えなかった。

「…そうだ。君たち、九条花音知ってる？」
「え、花音さん？」
「花音ちゃんなら俺たちの元で振付師とレッスンコーチをしてる」
「！…あの子たちの元でお仕事…。そういうことか」
「なあ、九条」
「なに？」
「あんた、前に会った時も花音ちゃんと親しげそうだったけどどういう関係なんだ？あの子、自分のことは全く話さないから、」
「花音さんは話さないだろうし、ボクから君たちに言うことは何もないよ」
「！」
「………」

誰とでも親しげにしてるように見えて、どこか周りに一線を引いている花音。その花音が天に対してだけはIDOLiSH7を見ている時とはどこか違う視線を向けていたのは傍から見てもわかった。

「九条さんと花音さんの苗字が同じことが関係あるんですか？」
「………」
「前に花音さんに聞いた時がありましたが、その時に花音さんは何も言わなかったんです」
「だろうね。さっきも言ったけど、ボクがあの人のことを話すつもりは一切ないよ。ただ忠告はしてあげる」
「忠告？」
「あの人が抱える闇は、出会って間もない君たちに背負えるものじゃない。安易な気持ちで花音さんに関わらないで」
「………」
「たくさん傷ついてきたんだ。きっと今だってボロボロなくせに、誰にも頼らないなんてあの人は本当に大バカだ…」

さっきとは打って変わった天の悲痛な声に、2人は息を飲んだ。それと同時に、天にとって花音という存在がとても大切な人であることがよく伝わってくる。
たくさん傷ついているようには見えなかった。ボロボロなようには見えなかった。けれどそう見えていたのは、きっと2人が花音のことを知らなすぎたからかもしれない。

「…とにかく、花音さんにこれ以上負担をかけさせるようなことはしないであげて。それだけ」
「………」
「それじゃあボクはもう行くよ。バイバイ」

去っていく彼の後ろ姿をただ眺めることしか出来ないことをもどかしく思う。
天から花音のことを聞いてもきっと何も話してはくれない。さっきは引き留めたらちゃんと振り向いてくれたけれど、きっと花音のことに関してだったら天は立ち止まりさえも知らないだろう。
ーーー九条花音を何も知らない自分が悔しい。2人は強くそう思った。