【アイナナ】ココロの歌 (ページ31)

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「それでも言わせてください。花音さん、九条さんに会いに行ってあげてください。あの人は今もまだあなたが戻ってくることを待っています」
「会わないよ」
「！」
「…もうすぐ開演時間だね。早く行かないと」
「………。じゃあ、ライブだけでも観ていってください。ちゃんと今のボクを観てください」
「………」
「このまま、ライブ見ずに帰るつもりだったんですよね。あなたならきっとやりかねないから」
「…そうだね。そのつもりだったよ。だけど、あのTRIGGERのセンター九条天くんから直々に観てくださいなんて頼まれたらさすがに帰れないや」
「じゃあ、」
「最高のパフォーマンス、期待してる。でも無茶はしちゃダメだからね」
「…ありがとうございます」

ここまで流れで付いてくることになっちゃったけど、本当に帰るつもりだった。やっぱり天くんってば、ズルいよなあ。ーーーあんな風に頼まれて、断れる人なんていないよ。

「カノン！ヤマトとタマキ行ってしまいましたよ！」
「ごめんね、いま行く」

わたしは、天くんが救われることを願う一人だから。

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TRIGGERのライブは、圧巻という言葉しか出てこなかった。彼はわたしの知っている幼い頃の天くんからずっとずっと成長していて、時の流れって早いなと年寄りじみたことをしみじみ思った。TRIGGERのメンバー八乙女楽、十龍之介もなかなかの実力者で、おそらくTRIGGERっていうグループに所属していなかったらどこかでセンターをしていてもおかしくないなとも失礼ながら感じてしまった。
わたしの知らない天くん。グループからの信頼を受けてセンターに立つ九条天。
ーーー君は、もう鷹匡さんに解放されていいんだよ。
彼は鷹匡さんの夢を叶える子どもとして、七瀬という本当の苗字を捨てさせてまでこちらへ連れて来られた。鷹匡さんの元に行くことを選んだ天くんの選択をわたしは決して否定するわけではないが、君だって本当は息苦しさを感じているんじゃないかな。鷹匡さんの元にいることと、君が今いるTRIGGERの元にいることへの板挟みのような状態。
それに天くんは賢い子だから知っているはずだ。たとえゼロを超えたとしても、鷹匡さんにとってなんの救いにもならないことを。

「…難しいね」

体調不良を感じさせないキラキラとした表情のまま終えたステージを眺めながら、気付けばわたしはそう呟いていたのだった。