【アイナナ】ココロの歌 (ページ3)

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002 突然の勧誘ページ3

「君、芸能界に興味無いかい？」

彼の言葉が、まるでわたしの逃げられない運命のようだなと思った。散々だ。どうして、わたしが。

「ないです」
「あっ！ごめんね、言い方を間違えた。音楽の世界に興味はないかい？」
「…音楽の世界？」
「僕、今ある事務所の社長をしているんだ。それでこれから新しい男性アイドルユニットを結成するつもりなんだけど、もし良ければ君に彼らのダンスの振り付け師とその講師をやってくれないかい？」
「………」

なんていきなりで無茶なスカウトなんだ。
凡その内容はわかった。しかしどうしても理解はしがたい。まだ「モデルやってみないかい？」とか「アイドルなってみないかい？」とかいったスカウトの方がよっぽど理解が出来る。ただ道端歩いているだけで、振り付け師と講師を頼むなんて現実的に有り得ない。

「いきなりだということも、無茶を言っていることもわかってるよ。ただ、君にぜひ僕が見つけたあの7人を見て欲しいんだ」
「わたし、声に出してました？」
「出てはいないけど顔に書いてあったよ」
「…そもそもあなた誰ですか。名前も知らない人に突然振り付け師と講師やれなんて言われても困ります」
「ああ、そういえば自己紹介をしていなかったね。僕は小鳥遊プロダクションの社長、小鳥遊音晴。これ名刺ね」

小鳥遊音晴…。どこかで聞いたことがある気がするが思い出せない。
昔から人の名前と顔を覚えるのは苦手だ。でも音楽についてのことで声をかけてくるなんて、可能性はひとつしかない。

「あの、わたしは…」
「じゃあ早速だけど明日空いているかい？」
「え？空いてますけど…。って、あの、わたし、」
「よかった。明日の10時ににこの場所に来てもらえるかな？これ場所の詳細。詳しいことは全部書いてあるから」
「いや、あの…」
「それじゃあよろしくね！」

地図と集合時間が書かれた紙を無理矢理持たせると小鳥遊さんは「またね」と消えた。あまりに押しが強すぎてわたしが入る余地さえ与えられなかった。
ーーーどうするか？行くか？
確かに職に困っていた。だけどそれを見越したかのようなこのタイミングの良さ。怪しい。だが、小鳥遊さんの雰囲気自体は悪い人じゃなさそうだったから一概に怪しいとも言えない。押し強かったけど。
結局その日1日は、この勧誘をどうするかずっと考えていたために元々伺う予定だった彼の元に行くことはなかった。