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「はまちゃん、なんでこのカブにたかひろってつけたん？」
Aを後ろに乗せて、家路を急ぐ帰り道。
そんなことを聞かれて、思わず聞き返す。
たかひろ、というのは崇裕と書く。
言わずもがな、親からもらったアタシの名前だ。
名乗ってやれなくなってしまった供養として、愛車に自分の名前をつけた。
安いカブだけど、ずっと一緒だからもう相棒というより恋人のような気さえする。
「昔の男の名前」
嘘はついていない。昔の男(だったころ)の名前だ。
それでもAは違う意味に捉えたのだろう。
すごくすきだったのね、と年頃のませた女の子のリアクションをする。
そうね、すごく好きだったけどすごく嫌いだったわ。
声には出さないけど、心の中でつぶやく。
今でもアタシやジュンは体は男のままだ。
それは未練とかじゃないけど、きっと未練にも似た感情が故の行動なんだろう。
今でも男の格好をすることが多い。
それも未練とかじゃないけど、そっちのほうが生きやすいときだってある。
少しだけ変わっていく世界。
のんすけのように、戸籍も変えられるほどになった。
それでも男の体で生まれたことを、アタシは忘れたくないし
まるでそれが悪しきことのように思って生きていたくないと思った。
それをジュンに言えば、はまちゃんはやっぱり純粋できれいだと朗らかに言った。
よくわからないけど、単に未練がましいだけなように自分では思う。
「ハマちゃんは、のんちゃんみたいにはしないの」
まるで心の中をのぞいているみたいに、Aが鈴の鳴るような声で言った。
あのころのジュンそっくりなきれいな声だ。
「アタシはね、完璧な中途半端になるの」
「かんぺきな、ちゅうとはんぱ？」
意味がわからないといったように繰り返したAは
アタシの背中にほほをあてる。
風を切って走る崇裕と、それに乗って風になるアタシ。
全部中途半端かもしれなくても、完璧な中途半端として生きていくのが
今のアタシの夢だ。
夢をかなえたジュンは、きっとずっとアタシの女神。
一緒に生きていこうといってくれたジュンをアタシは信じ続けるだろう。
空一面の茜色の端っこに、きれいな紫が見えて
夕焼けと夜の入り混じる空をアタシとジュンだと思うことにした。
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笙緒(プロフ) - とても感動しました。自身も普通ではないので、こういう話を書いてくれることに感謝しています。とくにハマ子さんの「完璧な中途半端になる」が刺さりました・・・ (2019年1月24日 4時) (
レス) id: e66222057e (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - カマ愛とても好きなお話です！移行後も楽しみです！たくさん世間を知ったジュンちゃんを始め、言葉がどれも刺さりました。ハマコのお話はいろんな気持ちになりました…。せかんども楽しみにしています！！ (2018年12月19日 3時) (レス) id: 99b67e1c08 (このIDを非表示/違反報告)
美優(プロフ) - 更新お疲れ様です。そして、ありがとうございます。毎回楽しく読ませていただいてます。個人的に、いろんな感情とマッチして、揺さぶられて、涙が出てしまいました。とても素敵な作品だと思います。これからも楽しみにしてます。 (2018年12月19日 1時) (レス) id: 03516e5203 (このIDを非表示/違反報告)
うめはな(プロフ) - 初コメ失礼します(*_ _)深瀬さん更新ありがとうございます！何かのご縁で初めて深瀬さんに出会ってから1.2ヶ月ほど？でしょうか。この作品が本当に好きで積もる思いが多くありすぎるので文字制限の中で感想を伝えきれません…笑 セカンドも楽しみにしていますね。 (2018年12月18日 22時) (レス) id: 4b9dff3fa4 (このIDを非表示/違反報告)
一波(プロフ) - 更新待ってました！嬉しすぎます！取り急ぎ嬉しい事だけ伝えたくて！時間作ってゆっくり読みます(^^) (2018年12月2日 19時) (レス) id: 69b62aacad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：深瀬
| 作成日時：2018年10月21日 23時
