◎青春は止まらない(桃) ページ2
「バカ」
中庭にある、人一人分辛うじて入れる抜け道をするりと抜けて、歩いて走ってようやく辿り着くのが私の秘密基地。
私「達」の、秘密基地。
「もう来たんか、アホ」
ぶうたれた顔して小高い丘の下に広がる自然豊かな私達の住む街を見つめた幼馴染は、今日も浮かない顔をしてる。
「そりゃ、私はアンタの保護者同然ですから」
「なんなんそのドヤ顔、うっざ」
「いつからそんな口聞けるようになったん」
「イデデデデ、ごめんて」
一つ年下の彼は、田舎も田舎なこの土地では珍しいキラキラ輝く王子様みたいな容姿で生まれてきた。
モデルでもしてるんちゃうか、そう見まごうほどに眩いのに。
誰にでもすんなり馴染めちゃう人柄の良さも持ち合わせてるのに。
こうして吐き出せない我慢をいつもいつも抱えてる。
だから、のほうが正しいのかもしれない。
彼の味方はこの世界にいないから。
「また、振られたんか」
「…………何考えてるかわからん言われたわ。俺からしたらお前らのほうが未知の生物過ぎてわからんし」
女って分かんねー。
そう言いつつも、この台詞をつい二ヶ月前も聞いた気がするから、コイツは懲りない。
全く持って懲りない。
チークでもしてるんじゃないだろうかってくらいに桃色に美しく染まってる彼の、ふわふわしたほっぺたにぷくっとハムスターのごとく空気が溜まっていた。
「私も、女なんやけど」
「え?」
「他の女子にはやさしいくせに」
「お前は同志やろ」
キラキラした瞳に映る世界。
私は彼の見ているその世界に、一体どう映っているのだろう。
少人数の小さな学校で、彼と付き合ったことのない女の子はもう私くらいだ。
男の部分を見たことがない私を、彼はどんな風に見つめているんだろう。
「むかつく」
「ちゃんと守ってやるから」
「は?」
「お前、可愛いんやぞ自覚持て」
淳太とか狙っとんのやぞ、と呟かれた声は弱々しい。
「淳太って中間先生じゃん」
「嘘はついとらん。やから守ってるんやで」
「意味わかんない」
「わからんならそれでええわ」
俺が守らな、お前壊れてまうから。
それからは一向に彼の目はこちらに向こうとしなかった。
見下ろした丘の下に広がる私達の街。
ザワザワと頬を撫でる風は、自然豊かなこの街を優しく包み込んでいく。
ほろ苦いこの気持ちを、抱えたままの私達は、今。
止まらない青春の渦の中にいる。
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一波(プロフ) - 痛くて苦しくて歪んでて…片側から見たらすっぱい感情ばかりの綺麗な想いがたくさん詰まったお話たちだと思いました。限られた文字数でよくこんなに人の心を掻き乱すお話書けるなぁと圧巻です!続き読みたいのと答え合わせしたいお話がありました(^^) (2017年12月6日 7時) (携帯から) (レス) id: b00addc009 (このIDを非表示/違反報告)
深瀬(プロフ) - カジャさん» カジャ様、お久しぶりです。立ち止まりそうな気持ちを、そっと支えることのできる言葉たちを送りたいと思っているのでコメントに至極感激致しました。現在私情で更新ゆっくりですが、今後共よろしくお願いします。 (2017年10月9日 21時) (レス) id: e0839c8daf (このIDを非表示/違反報告)
カジャ(プロフ) - 久しぶりに深瀬さんの作品に目を通しました。深瀬ワールドは健在のようで、嬉しかったです。辛かった時、あなたの作品を見て踏み出そうと思えたことを思い出します。影ながら応援しています、更新頑張ってください。 (2017年10月9日 21時) (レス) id: 7a9558f5e1 (このIDを非表示/違反報告)
深瀬(プロフ) - コパンダさん» 素晴らしい!気づいてくださってありがとうございます。マスカレードが大好きなので、世界を散りばめてみました。何も書かずにおいておいたので気づいていただけて嬉しかったです。これからも精進しますので宜しくお願いいたします。 (2017年1月30日 15時) (レス) id: 5852a1f709 (このIDを非表示/違反報告)
コパンダ(プロフ) - 初コメです!夜を駆けるっていうお話ってもしかして嵐のマスカレードが元ですか?なんか読み進めていたら、まさか!ってなって興奮しちゃって…しかも、文章とかも読みやすくてさらに興奮してしまいました(汗)これからも更新頑張ってください! (2017年1月30日 15時) (レス) id: 2feac370d3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:深瀬 | 作成日時:2017年1月5日 5時