「愛してない」 (ページ39)

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『遅いなぁ…』

もう21時を過ぎた。

お風呂も済ましたし家事もする事ないし、ご飯も冷めてしまった。

…遅い。

いっつもこんな遅いのかな。

暇過ぎてテレビを付けるけど、普段テレビなんて見ないから全然つまんなくて。

テレビを消して、シンとした空間でソファに沈み込む。

真っ白な壁に掛けてある時計の秒針が響く。

時計に目をやれば、時刻はもう23時。

何だか、寂しくて。

虚しくて。

キッチンのテーブルに置いてある夕ご飯にラップをかけて、溜め息をついた。

でもその瞬間、ガチャンと扉が開く音がした。

『あ！』

ひかるさんだ！

そう思ったらもう我慢出来なくなって、玄関に滑り込む勢いで走った。

途中転びそうになりながらも、玄関に向かう。

そこにはわたしの姿を見て目を見開くひかるさんが居た。

『おかえりなさい……！』

「もう寝てるかと思った。」

『おかえりなさい！！』

もう一度言えばひかるさんは一旦口を噤み、だけどすぐに口元を緩ませた。

「ただいま」

『おかえりなさい！』

「分かった分かった。」

思わず気持ち悪い笑顔を向けてしまう。

だけどひかるさんはさっきから扉の方をチラチラ見やり、溜め息をついた。

何かあるのかと扉に近寄ると、いきなり目の前の扉が勢い良く開く。

「わっ！」

『えっ！？』

いきなり開いた扉に思わず声を上げれば、わたしの目の前で誰かが叫んだ。

その声に目をパチパチ瞬けば、目の前の、ひかるさんとは違う人物がわたしの両肩を掴む。

『ちょ…？！』

その人は、瞳を見開いてわたしを見つめている。

状況が飲み込めないわたしの肩に置かれたその人の手のひらを、ひかるさんは払いのけた。

そして庇うようにわたしの前に立つ。

「驚いてるだろ。」

「あ……いや！ごめんね！あんまり可愛かったから、だからあんま警戒しないでもう何もしない！」

『はぁ……？』

パーマがかったフワフワの髪を靡かせ、その人は人懐っこそうな瞳を細めて微笑んだ。

その瞳はとても優しげで、わたしは無意識のうちにしていたらしい警戒を解く。