「愛してない」 (ページ37)

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部屋に戻って着替えて用意していると、コンコンとノックをされ、慌てて返事をすればひかるさんがドアから顔を出す。

「お前いつ出んの？」

『えっと……あと少ししたら』

「んじゃ俺先行くな、多分お前のが早いから鍵もお前が持ってて」

『あ、はい。』

「んじゃ」

パタンと閉じられた瞬間、わたしのなかにどうしようもない寂しさが広がった。

そして大事な事を思い出す。

そうだ、言わなきゃ。

急いで部屋を飛び出して玄関に向かう。

玄関ではひかるさんがちょうど今出ようとドアノブに手をかけていた所だった。

ひかるさんはわたしの姿を見て目を見開く。

「何、どうした？」

『あ……あの、』

「ん？」

首を傾げてまじまじと見つめてくるから、少しだけ照れくさくて口を噤んだ。

『い、行ってらっしゃい……』

「……」

自然に言えなくて、小声になってしまって、急激にまた恥ずかしくなる。

ああもう嫌、ほんと……

「ん、行ってくる」

だけど、ふわっと髪を梳かれる仕草でわたしの頭に触れるひかるさん。

そんな彼を見て、きっとわたしの顔は今にやけた面になっているに違いない。

『行ってらっしゃい！』

「はいはい。戸締まりしっかりな」

『はい！行ってらっしゃい！』

嬉しくて、嬉しくて。

何度だって言いたい。

誰かに言う“行ってらっしゃい”が、こんなに嬉しい事だなんて知らなかったから。

ひかるさんが出て行った後も、しばらくにやけは止まらなかった。