「愛してない」 (ページ18)

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彼の綺麗な切れ長の瞳を見つめながら、わたしは唇を噛み締めて涙を流した。

それがどれだけ情けなくて、酷く滑稽なものか自分でも分かる。

けれど、どうしようもなかった。

岩本さんは、わたしがキツく握り締めていたコートを取り上げる。

それを、優しい動作でわたしの肩にかけた。

温かくて優しい香りに包まれて、また涙が溢れる。

「……名前は？」

『……え、？』

「名前は、何ていうの？」

わたしの頬を撫でながら、彼は問う。

震える唇を引き締め、真っ直ぐ岩本さんを見つめた。

穏やかに光るライトブラウンは、わたしを救ってくれる気がした。

『A…、』

「A？」

『A……です、』

「……いい名前。」

優しく笑う岩本さんは、わたしの頬を撫でる手を今度は頭に持っていく。

優しく撫でられ、心地よくて瞳を閉じる。

そんなわたしを見て、彼は呟いた。

「何か猫拾った気分。」

『……ねこ、』

「ほんと、自分でもバカかって思うけどな」

岩本さんが何を言ってるか分からないけれど、穏やかに笑ったその顔がわたしに光をくれた気がした。

岩本さんは、ゆっくりと立ち上がる。

寂しい思いでわたしはそれを見つめた。

「A。」

朝日を浴びた岩本さんに、思わず目を細める。

「うちに、来る？」

だらしなく、ボロボロと涙を零しながら、何度も、何度も何度も頷いた。

初めて強く何かを決意した、そんな朝だった。