「愛してない」 (ページ46)

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バイトにも慣れてきた頃。

「Aちゃん、痩せた？」

スタッフルームで私服に着替えている最中、深澤さんがわたしの体をまじまじ見ながら問い掛けた。

心当たりならある。

『そうですかね。』

「うん。何か腕とか、凄い細い」

『痩せたんならいい事ですね。』

「えー何言ってんの。Aちゃんガリッガリなんだからこれ以上痩せなくていいよ！」

『ガリッガリ…』

「骨だよ骨！」

不機嫌そうに片眉を吊り上げた深澤さんに、わたしは何も言えなくなった。

薄ピンクのカーディガンを羽織りながら、そういえば最近ご飯を食べていない事を思い出す。

「…その服」

『え？』

「可愛いね。」

突然、わたしの服を指差しながら深澤さんは笑う。

「でも何か、Aちゃんって感じしないね。いっつも思ってたけど。」

『それってこういう可愛いっらしい服が似合わないって事ですよね』

心がざわついた。

苦笑しながらそう言うと深澤さんは目元を緩ませてまた笑った。

この服は、あのクローゼットから出してきたもので、わたしのじゃない。

『まぁ、その通りなんですけどね』

「そんないじけた言い方しないで？似合ってないなんて言ってないじゃん」

『や、似合う似合わないじゃなくて。わたしこういう服元々好きじゃないっていうか。』

「じゃあ何で着てるの？」

当然の質問に、何も言い返せなくて口を紡ぐ。

でもわたしはその質問の正解を知らない。

だから、笑って誤魔化すしかなかった。

ーーーーーー

今はもう慣れた道を歩く。

ガシャガシャ袋の音をさせて、買いすぎたかな？なんて思いながら。

今日は早いかもしれない。

今日は一緒にご飯を食べれるかもしれない。

そんな淡い期待をするのだろう。

自分でもとっくに分かってるんだ。

『サラダに、煮物に、シチューに‥‥』

きっちり二人分の食事。

無駄を出すのは嫌だから、ちゃんとレシピも色々考えて作る。

そんな毎日も当たり前になった。

“今日は多分いつもより早いんじゃねぇかな”

そう言ったひかるさんのために、頑張って作った料理。

ひかるさんは約束を破った事はない。

果たしてこれが約束なんて言えるのか分からないけど、わたしは確かに彼を待っていた。