「愛してない」 (ページ43)

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『ありがとうございます！』

「いいのいいの！いや～、それにしてもAちゃん腕にすっぽり収まる。ちっさ！可愛いねぇ」

『わ、ちょっ、』

「ほんと猫みたい！」

突然、すっぽりと深澤さんがわたしの体を包み込む。

びっくりして、深澤さんの胸を押し返すがビクともしない。

この人とんだ変態だ…救世主とか思ったの撤回してやる……！

『ちょ、っ』

「いい匂いする～」

『分かりました、なんかもう分かりましたから色々！離して…！』

いい加減にして欲しくて足を使ってしまおうかと構えた瞬間、腕を強い力で引っ張られ、体のバランスを崩す。

それを温かくて優しい腕がわたしを受け止めてくれた。

「いい加減にしろ」

ひかるさんの腕の温かさに、無意識に息を吐く。

それはきっと、安心だとかそんな感情。

ひかるさんは相変わらずニコニコしている深澤さんを睨んだ。

「ごめんごめん。大事な子猫ちゃんだもんね」

「……ふっか」

「はいはーい。帰ります帰ります」

深澤さんはわたしとひかるさんを横目で見た後、リビングのソファの側に置いていた鞄を手に取る。

「A」

『あ、はい…』

「もう遅いから、寝てな」

お見送りくらい、と思ったけど今日はおとなしく従うことにして、部屋に戻ろうと深澤さんに小さく頭を下げて背中を向ける。

「Aちゃん」

部屋に戻ろうとした足を、深澤さんが止めた。

振り向いて深澤さんを見れば、また、あの妖しい笑みでわたしを見てる。

「バイトの詳しい内容は照に言っておくね」

『…どうも、』

「また、会おうね」

フワフワ揺れる髪を靡かせて、深澤さんは帰って行った。

不思議な人。

いい人なんだろうけど、何だか掴みどころがない人だった。

ひかるさんの、幼なじみ。

わたしの知らない、ひかるさんを知る人。

その事実が何故か、わたしの胸を、締め付けさせた。