「愛してない」 (ページ21)

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パタンと、救急箱のフタを閉める音が静かなこの空間に響いた。

その音が思いの外大きくて、体がピクリと反応してしまう。

岩本さんは、わたしの瞳をジッと見つめていた。

その瞳の色は、本当に綺麗。

不思議な感覚になってしまうくらいだ。

「…んで？」

『え？』

「戻って、殴られて、死にたくなって、また踏み切りに来るか？」

『……』

「その繰り返し？」

何も、言えなかった。

だってその通りだから。

自分でも分かっているから。

目を背ける事が出来ない程、わたしは臆病で。

けれど立ち向かう勇気を持ち合わせているかというと、答えは否だ。

結局は無力で、幼くて、残酷で。

誰が1番悪いかぐらい、わたしにだってちゃんと分かってるの。

だけど。

『答えが、見つからないんです、』

声が震えてしまったかもしれない。

でももうこの人には何度も泣いた所を見られているから、そんな事どうでもよかった。

『わたしが逃げれば…アイツが傷付くのは当たり前で…わたしは、その痛みを知ってるから、そんな事、出来なくて…』

ああ、わたし何言ってんだろう。

何を伝えたいんだろう。

もうグッチャグチャ。

「…あのな、お前勘違いすんなよ」

その言葉に、顔を上げた。

優しいと感じた瞳の色は、今度は鋭く強い光を放っている。

「ここを逃げ場所として使えなんて言ってないし、そうするつもりならこっちからお断りだから。」

『……、』

「来るも来ないもお前次第だけど、どっちにしろ…今度は逃げない覚悟をしろって事だよ」

『覚悟……』

彼は今度は目元をうんと優しくさせて頷いた。

目に見えるその優しさに、泣きたくなる。

「ソイツのとこに戻って、また繰り返しになるんならお前はそっから何一つ進まない」

『……』

「進みたいと思うなら、幸せになりたいと思うなら、ソイツの事を思うなら、お前の歪んだその気持ちを根底から変えていかなくちゃダメだろ。」

進みたいと、思うなら。

幸せになりたいと、思うなら。

わたしは、どうなりたいんだろう。