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踏み切りまで、岩本さんは見送ってくれた。
最初会った時と随分印象の違った目の前の男を、見上げる。
綺麗な髪と瞳に端正な顔付きに、初めこそ怖がったりもしたけれど。
この人、きっと不器用なだけなのかもしれない。
そう思える程に、彼の印象は良くなった。
『コート…洗って返します、』
「何、それまでちゃんと生きれんの?」
『…た…たぶん、』
「…別に返さなくていいから。お前二度とここ来ない努力しろ。」
冗談を言ったと思えば、真剣な顔してそう言うもんだから。
わたしは何も言えなくなってしまった。
もう一度ペコリと頭を下げて、岩本さんに背を向け来た道を戻る。
黒のコートをキュッと握った。
優しくて甘い香りが、わたしの心を穏やかにしてくれる気がする。
時間を確認すれば、もうすぐ6時だ。
翔太が起きる前に早く帰らなきゃいけない。
わたしは来る時よりも軽い足取りでアパートに向かった。
ーーーーーーー
アパートに帰ると、翔太は出た時同様ぐっすりと眠っていた。
余程昨日疲れていたのか翔太はそれでも起きなかった。
コートはどうにかして見つからないようにしなきゃなんない。
とりあえずコートを鞄に突っ込んで、そっと書き置きを残してわたしはアパートを出た。
家にいれば翔太にいつ殴られるか分からないし、大学は大学でつまらないけど、家にいるよりマシだ。
……死にたいって、今も思ってる。
楽になれたらって、思ってる。
でもどうやら、わたしは死ぬのが怖いらしい。
死にたいとか思った癖に、いざ死ぬってなると怖じ気づくとか少し笑える。
……完全に、やめた訳じゃないけど。
きっとまた、死にたいって踏み切り行くかもしんないけど。
でも今は、ちょっと頑張ってみよう。
この世界は冷たくて悲しいけれど、わたしの苦しみだけ知っててくれる岩本さんが居てくれるから。
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あっぷるぱい(プロフ) - しょっぴーと主人公がお互いに依存してたならば私はこの作品に依存しそうです (2019年7月15日 23時) (レス) id: 23406a511b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さと | 作成日時:2016年2月16日 23時