「愛してない」2 (ページ6)

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ひかるさんが居ない手前、わたし達の事を軽々しく言うのは躊躇われた。

それにひかるさんとこの人がどれくらい親密なのかにもよるし。

視線を泳がせながら黙秘を決め込む。

それを確認した女の人は、ふぅと煙を吐きながらわたしの頭のてっぺんから足のつま先までをじっくりと見つめる。

「…その服」

『え？』

「その服、アンタのじゃないでしょ」

『あ……ああ、はい…』

この部屋着はあの部屋の持ち主の物。

それが分かるという事は部屋の持ち主の事も、この人は知っているんじゃないだろうか。

問うつもりはないけれど、そう思わずにはいられなかった。

「アイツが着ていいって言ったの？」

『え？』

「だから照が着ていいって、言ったの？」

“照”

発せられたその言葉に僅かな痛みが胸を刺す。

自然に、当たり前のように出された名前。

それに戸惑いながらも、ゆっくりと頷いた。

「……ふぅん」

女の人は一瞬目を見開いた後、興味をなくしたように煙草を灰皿に押し付けた。

そんなとき、ガチャッと扉が開く音がして、逃げるように玄関に急いで向かった。

『お帰りなさい！』

「ただいま……誰か来てんの？」

扉を閉めた後すぐに脱ぎ散らかしてある茶色のロングブーツに視線を向けたひかるさんに何と言っていいか分からず曖昧に笑った。

『多分知り合いの人が、』

「知り合い？」

『綺麗な人で…』

眉をしかめさせたひかるさんはしばらく考え込んだ後、“ああ”と何か思い出したような声を出した。

そしてリビングに繋がる扉を、ゆっくりと開ける。

「雅。」

「遅い。待たせんな」

“みやび”

そう呼ばれた人はひかるさんを見て形のいい眉を片方吊り上げる。

「待たせんなって勝手に来たのお前なんだけど」

「あたしが来る事予想しとけよ」

「何言ってんのお前」

２人の会話に着いていけないわたしは２人を交互に見比べる。

これだけ言い合えるって事は、きっと知り合いレベルではないんだろう。

思いっ切り眉をしかめさせているひかるさんは、深く溜め息をつきわたしに視線を変える。

「A、寝てなくて平気？」

一瞬のうちに優しい顔付きになってくれた気がして、不覚にもキュンと胸が縮んだ感じになる。

『平気…』

「ん、色々買って来たから何か食べろ。そんで薬、ちゃんと飲め。」

頭にポンッと手を乗せられ、コンビニの袋を受け取った。