「愛してない」2 (ページ5)

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チャイム？

ひかるさんはチャイムなんか鳴らさないし、帰って来るにしては早すぎる。

誰か、来た？

躊躇われたが、わたしが出ると色々まずい。

息を潜めて、縮こまった。

…ガチャン。

『えっ！』

明らかに、鍵が開いた音。

びっくりして声が上がってしまった。

ドタバタと、廊下を駆ける音が聞こえる。

慌てて立ち上がり、どこかに隠れられる場所がないかと探した。

『え、どうしよっ……わっ！』

ガタッと椅子が動いてしまい物音が立つ。

廊下に居る人が、ピタリと足を止める。

怖くなって、手足が震える。

どうしよう。

「……誰」

そう声がしたのは、怖くなって自分の膝を抱えた数秒後。

泣きそうになっている顔を、恐る恐る上げた。

「……あんた誰？」

もう一度、探るように鋭い言葉を投げ掛けたのは、とても綺麗な女の人だった。

赤いダッフルから真っ白なワンピースを覗かせ、明るい色をした腰まである巻き髪を揺らせて、不審な瞳でわたしを見つめている。

恐怖がとりあえずの安心に変わって、何故か涙が出た。

び、びっくりした。

びっくりした…！

突然泣きだしたわたしを覗き込み、目の前の女の人は眉をしかめさせる。

「…泥棒、じゃないよね」

怪訝そうな瞳で見つめてくるその人に、鼻を啜りながらゆっくり頷いた。

女の人は辺りをキョロキョロ見回している。

そして再びわたしに視線を戻し、口を開いた。

「ここの主は？」

『…あ、えっと、コンビニ…』

「……コンビニね」

深く溜め息をついた女の人は、赤いダッフルをソファへ投げ捨てた。

我が物顔でそのソファに座り、ひかるさんが置いていった煙草を手に取る。

その可憐な顔には似合わない煙草を、慣れた手つきで口に挟む。

「…ていうか、アンタ、何」

『えっと…神谷Aです、』

「名前じゃなくて、何でここに居んの？」

『え……っ、と…』

すっかり涙は引っ込んだものの、この女の人の威圧に耐えきれなくてまた新たな涙を零しそうだった。

どう言っていいか分からなくて口ごもる。

女の人は煙草に火を付けながら横目で睨んでくる。