「愛してない」2 (ページ33)

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「照は大学生になってから家を出て、バイトして、金貯めて、そんで今、雑誌編集っていう職業に就いた。」

わたしの表情を気にしながら、深澤さんは話を続けた。

「新しい環境ん中、ずっと照を支えてたのは桜乃さんだった。二人は一緒に住んでたんだ。」

『二人は……あの、』

「付き合ってないよ。ずっと、照の片想い。」

『……』

「気付いてたとは思うけどね。桜乃さんは照の気持ちに…」

困ったとでもいうように、深澤さんは肩を竦めた。

「不毛だよなぁ。絶対叶わない恋なのに。照は知ってたんだ、ずっと前から二人は実の兄弟なんだって。知っててもまだ桜乃さんを愛してた。」

『……』

「桜乃さんのために高価な靴や鞄や服を買い揃えて。桜乃さんに好かれたいがために。」

『はい…』

「でも、きっとそれが重かったのかな」

『えっ…』

「桜乃さんね、違う男と、照に別れも告げず出て行ったんだ。」

なんの躊躇いもなく、まるでそれが当たり前かのように、告げられた。

あまりにも衝撃的で、開いた口が塞がらない。

「…元々、恋多き人だから。こういう事は度々あったんだ。だけど結局駄目になる度、照のとこに戻って来てた。照はそれを受け入れてた。アイツは信じてたんだ。桜乃さんは、必ず自分の所に戻って来るって。」

深澤さんの声が、耳の奥でずっと響いてる。

「だから桜乃さんの物を処分出来なくて。今だって、残ってる。」

耳に膜が張ってるみたいだ。

「でも出て行って二年は経った。だから俺も雅も安心してたんだ。桜乃さんは嫌いじゃないけど、桜乃さんと居ると照、真っ当に生きれない気がして…」

聞きたくないと、身体が拒絶する。

「…なのに、今近くに居るって。雅に電話、来たらしい。」

深澤さんに頭を下げて、わたしは店を飛び出した。

どうしても、どうしても“さくのさん”を愛してるひかるさんの話をもうこれ以上は聞きたくなくて。

胸が、痛いの。

張り裂けてしまいそう。

涙が、頬を伝った。

拭っても不思議と止まらなくて。

止まって…そう思えば思う程、喉の奥が焼けるみたいに熱くて痺れてる。

何がこんなに哀しいの？

その涙は何の涙なの？

同情？失恋の涙？

違う。

わたしはいつだって、自分本位の恋しかしてないから。

この涙だってきっと、ひかるさんの事を想った涙ではない。

貴方の、愛しい過去を知ってしまった。

嫉妬の、涙なの。