「愛してない」2 (ページ28)

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「……ごめん、」

深澤さんがポツリと呟いた。

一体何の事に対して謝っているのか分からなくて、首を傾げる。

「雅は、照に対して過保護だから。小さい頃からずっと」

『過保護…ですか…』

「うん、何つーか…照には俺らしか居なかったから。責任感、みたいなの？」

『……』

「Aちゃん、雅から…何か聞いた？」

その質問に、何にも答えられなかった。

でも、黙ってるって事は肯定しているという事。

深澤さんは苦笑しながらわたしの頭を撫でた。

「Aちゃんて、ほんと嘘つけねぇのな」

『…すみません。』

「いいよ。どう？聞きたくなった？」

『え？』

深澤さんに顔を覗き込まれ、心臓がどくんと跳ね上がった。

妖艶なその笑みは、深澤さんと初めて会った時と同じだった。

「聞きたくなった？照の事。」

『……』

「Aちゃん？」

『わたし……』

何て言っていいのか、分からなくて。

深澤さんから視線を外した。

聞きたくない。

こないだはそう言ったけれど、今は、素直にそう言えない自分がもどかしい。

わたしの迷いを悟ったのか、深澤さんはわたしの頭をポンと優しく撫でた。

「他人の過去とか言って…ほんとは俺も、Aちゃんに知って欲しいって思ってる。」

『えっ…』

「照はほんとどうしようもない奴だから、いつまで経っても縛られたまんまなんだ。桜乃に…」

切なく揺れた深澤さんの瞳に、心を掴まれた。

痛い、痛いと叫ぶ。

知りたい。

知りたくない。

逃げたい。

逃げたくない。

本当のわたしの気持ちは、どっち？

「おかえり」

心臓が、どくんと鳴った。

今日に限って帰りが早いんだから。

ひかるさんの顔が見れなくて、俯いたまま言葉を交わす。

『ただいま。は、早いんですね、今日。』

「仕事、一段落着いたから。しばらくは定時。」

部屋に行こうとしたけれど、今日の雅さんと深澤さんの会話が頭をよぎった。

…電話があったって。

近くに居るかもしれないって。

そうしたらどうなるのわたしは。

あの部屋だって、ずっとあのまま。

あの状態の、まま。

さくのさんが戻って来たらきっと、わたしなんかいらなくなる。

いらなく、なる。

「A？」

ひかるさんの声が愛しいけれど、痛い。

わたしを置いていかないで。

わたしの側に居て。

わたしを捨てないで。

わたしの事、誰よりも、愛してよ。