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“好きな人出来た?”
そう言われないと気付かないものなら、このまま分からないままが良かった。
そうやって目を逸らしていれば、ここまでの気持ちになんてなんなかったのかな。
どうしよう。
わたし、どうしよう。
『わたし……』
「好きに、なった?」
気付きたくなかった。
知らないままなら良かった。
わたし、あの人に、恋した。
唖然とするわたしに、不思議そうに首を傾げる翔太。
それに応えられないまま、わたしはドクドクとうるさい心臓の辺りを手で押さえた。
気付きたくなくて、目を逸らしては絶望して。
後悔してる。
こんな感情を抱いた事。
でも、“嬉しい”と感じてる。
絶対叶う訳ないのに。
あの人はきっと、わたしを、他の誰も、愛さないのに。
「……何か、ごめ…」
ポツリと、翔太が呟いた。
『ううん、違うの……』
「うん、」
『わたし…好きなんだ、』
「…一緒に住んでる人?」
『……うん、』
「そっか。……俺には、今のAの事情とか分かんないけどさ。…応援してるから。」
翔太はベンチから立ち上がって、わたしの頭に手を乗せる。
久しぶりに感じるその手のぬくもり。
だけど、ひかるさんの大きな手と違うことに比べてしまった。
ああ、わたしこんなにひかるさんのこと好きなんだ。
「ちゃんと、幸せになれよ。」
『……翔太こそ。』
ハッキリ、うん、とは言えなかった。
だって、わたしの片思いで終わってしまうかもしれないから。
それでも、なんとか言葉を紡いで翔太には笑って返した。
名残惜しそうにわたしの頭から手を離して、背を向けて去っていく。
その背中を、わたしは消えるまで見送った。
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かえで(プロフ) - この小説大好きです!!!いつも更新楽しみにしてます(^^)頑張ってください☆ (2016年3月21日 22時) (レス) id: 683565b60e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さと | 作成日時:2016年3月1日 16時