「愛してない」2 (ページ12)

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突然、コートのポケットに入っていた携帯が震えた。

出るつもりなんてなかったのに、無意識に携帯を見れば、見たくなかった番号。

それは紛れもなく、母親の番号だった。

指先が一気に冷たくなって、ボタンなんて押せる筈がない。

鳴り止まない携帯を鞄に突っ込む。

どうして、今。

どうして今連絡なんてしてくるの？

フラフラ歩くだけが、気付いたら夢中で走ってた。

異常な息切れと、激しい動悸に胸が痛くなる。

何の用で電話して来たか分かってるし、自分の口で適当に誤魔化した方が早いのかもしれない。

そんなの分かってる。

だけどわたし、あの人と話してまたあんな気持ちになるの嫌だ。

あんな苦しくて苦しくてたまらない思いになるの嫌だ。

あの人が愛してくれないから、わたしは翔太に逃げ込んだの。

その翔太を手放して、ひかるさんといるの。

ひかるさんは愛してくれないけど、それでもようやく掴んだ、幸せなのに。

気付けば辺りは真っ暗で、わたしはずっと、その辺の公園のベンチに座り込んでいた。

寒さなんて今まで感じなかったのに、指先は手の色がなくなるくらいに白くなってた。

このまま、消えてなくなればいいのに。

何もかも、リセットしてしまいたい。

もう、終わらせてしまいたい。

そうしてまた、生きてる意味なんてないって思ってしまう。

死にたい死にたいばっかり。

なんて弱い生き物なんだろう。

『ダメだ……』

深く息を吸い込み、吐き出す。

力の入らない手のひらを緩く握り締め、帰らなきゃと思った。

不意に鞄に入れたままの携帯が気になり、ディスプレイを見れば、ひかるさんからの着信が沢山入ってた。

だってわたしには、待っててくれる人がいるんだ。

アイツらの着信がなくて安心してると同時に、時間を見ればもう午後九時は過ぎている。

かけ直すのも何だか今更な気がして、わたしはとぼとぼマンションに帰った。

着信が入ってたって事は、もしかしたらもう帰ってるかもしんない。

そう思ったら急に嬉しくなって、さっきまでの果てしない絶望感から少し抜け出せた。

早く早くと、気持ちは逸る。

マンションが見えて来たと思ったら、マンションの前に人影が見えてそれがひかるさんだと気付くのには時間はかからなかった。