「愛してない」2 (ページ45)

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「Aちゃん！」

深澤さんの声がした瞬間、肩を思いきり掴まれた。

涙を拭う気力もなくて、促されるままに向き合う。

深澤さんは顔をしかめ、その後わたしの頬に伝う涙を拭ってくれた。

「…ごめん」

『謝られる理由ないです、』

「…電話が、あったんだ。桜乃さん、最初に照に電話したらしいんだけど喧嘩っぽくなって話せなかったって」

『……そうですか』

「そんで俺んとこ話に来てて……つか、桜乃さんさ。…結婚すんだって」

その瞬間浮かんだのは、辛そうな、泣きそうな顔して笑ってたひかるさん。

愛しげにさくのさんを見つめていた、ひかるさん。

深澤さんによれば、ひかるさんと暮らしていた頃、さくのさんには彼氏が居たらしい。

本気で好きになって、愛した人が。

彼氏に同棲を誘われて、流れるまま軽い気持ちであのマンション出ていったんだと。

ひかるさんの気持ちに、気付いていたのに。

『…酷い話、』

「Aちゃん……」

『……バカみたい…ひかるさん、全然報われないじゃん。利用されてるじゃん…』

「……」

『何でひかるさん、さくのさん好きなんだろ……何で、わたし、』

ひかるさんの事、好きなんだろう。

そのまま深澤さんにマンションまで送ってもらい、すぐ部屋に入る。

扉の前で立ち尽くし、部屋全体をぼんやりと眺める。

さくのさんの服、鞄、ベッド、テーブル。

さくのさんの物が溢れる部屋。

さくのさんが居た証。

ひかるさんが、さくのさんを愛した証。

……憎い。

そんな感情がわたしを包んでいく。

虚しい気持ちで、身体が震える。

壊してしまいたい何もかも。

『こんな部屋…！』

さくのさんを愛したひかるさんなんか、いなくなればいい。

『服だって…っ、いらないっ！』

これをわたしに着せて、ひかるさんは一体何を想ったの？

『……っ、どうして！』

愛して欲しいと願うのに、愛して欲しいと縋った分だけ、貴方はわたしを愛さない。

“愛してない”

貴方は、どんな想いでそう言ったの？

貴方は、誰を愛してたの？

誰に愛して欲しかったの？

どうしてあの時、わたしを拾ったの？

『…っ、ひかるさん…っ』

やっぱりって、わたしの弱い部分が後悔してると嘆く。

どこから間違えたのか、もう分からない。

これは、ひかるさんと自分の気持ちから逃げた罰なのかな。