検索窓
今日:1 hit、昨日:12 hit、合計:622,088 hit

93 ページ43

「ごめんAちゃん、シフトの事はまた折り入って連絡するから」


わたしの肩を抱き、庇うみたいな体勢で深澤さんがそう言った。

コクリと頷いたけど、わたしの心はどっかに行ったまんまだ。

不安がドロドロと、心の中を侵してく。


「帰れる?」

『……あ、はい…』

「じゃあ暗くなる前に帰んな?」


そう促されて足を進める。

見たくないのに、さくのさんを見てしまう。


綺麗な人だ。

綺麗で、ひかるさんと、似ている。


…ダメだ、怖い。

震える足を叱咤して扉を開けようとした瞬間、廊下に響いたのは無機質な携帯の音だった。

深澤さんは、鳴り続ける自分の携帯の画面を見つめたまま呆然としていた。


「辰哉くん、出ないの?」


さくのさんが、呟いた。

深澤さんは眉を歪めて、しばらく黙る。


「…いいんだよ気を遣わなくて。照からでしょ?」

『えっ、』


思わず出してしまった声に、心臓が嫌な音を立てて鳴る。

そしてそれにいち早く反応したのは、さくのさんだった。


「…えっと、照の知り合いかな?」

『あ、いや、』

「……辰哉くん。」

「……」


促すようにさくのさんは少し強めの声を出した。

観念したように、深澤さんは携帯を耳に当てる。

嫌な汗が、伝う。

指先が冷たい。


逃げたいと思った。



「もしもし……うん。え、早くないか……うん……」


深澤さんはわたしをチラリと見て、そして頷く。


「いるよ……は?!いや、すぐ帰すから、」


焦っているような声に戸惑いが生まれる。

深澤さんはわたしとさくのさんを交互に見ながら、らしくなく声を荒げる。


「おい、待てって!まずいからー……!っ、ち、切られた」

『あの……』

「……照、来るって」

『え……?』


心臓を鷲掴みされたみたいに痛みを伴う。

震える身体をゆっくりと、さくのさんの方に向けた。

さくのさんは、試すみたいに、わたしを見据えてた。


「…照と、どういう知り合いなの?」

『わ、わたしは…』


真っ白な頭で必死に言葉を紡ごうとした瞬間、見慣れた、愛しい、大好きな姿が見えた。

94→←92



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (208 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
519人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

かえで(プロフ) - この小説大好きです!!!いつも更新楽しみにしてます(^^)頑張ってください☆ (2016年3月21日 22時) (レス) id: 683565b60e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:さと | 作成日時:2016年3月1日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。