「愛してない」2 (ページ31)

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翌日、バイトが終わってみんなが帰る中、わたしは書類とにらめっこしていた深澤さんに声をかけた。

『ひかるさんの過去を、教えて欲しいんです。』

そう言えば、深澤さんはひどく驚いた顔をした。

もう待ってらんなくて、いきなりそう発言してしまったわたしに微笑みかける。

「いいの？Aちゃんは。」

『……正直、分かんないです。聞きたいけど、聞きたくないみたいな。』

「……」

『でも、やっぱりわたし、好きだから。』

「…うん。」

『好きな人の事だから。』

深澤さんは、小さく頷いた。

本人の口から聞きたいと言ったくせに結局聞けなかった弱虫なわたしを罵る事だってしない。

わたし達以外居ないスタッフルームはとても静かだった。

「…何から、話せばいいかなぁ」

ポツリと呟く深澤さんの言葉を待つ。

「えーっと、じゃあまず照の家族の事から話そうかな。」

『家族…』

「うん。照のお父さんはレストランの経営者で結構有名な人なんだ。お母さんは普通に専業主婦で、お姉さんは…」

『さくの、さん。』

「！…そっか、昨日雅から聞いたんだもんな。…そう、桜乃さん。けどさ、照の家って色々複雑で。照のお父さん、照が小学生の頃一度離婚してて…少しして今のお母さんと再婚したんだ。」

『再婚…』

馴染みのある単語に、心臓がざわめいた。

「桜乃さんは、その再婚相手の、子ども。」

『え、じゃあ二人は血が繋がってないって事ですか？』

「んーん。」

ゆっくりと首を横に振るから、訳が分からなくてわたしは首を傾げた。

「こっからが複雑でさ。つーか俺も、他人の家庭の事あんまどうこう言いたくないんだけど…」

そう言って深澤さんは溜め息をつく。

切なそうに瞳を伏せた深澤さんは今、何を思ってこの話をしてるんだろう。

聞いてしまう事を躊躇ってしまったが、もう後には引けないと思った。

真っ直ぐ深澤さんを見れば、優しく笑って口を開く。

「照の両親の離婚、照のお父さんの不倫が原因だったんだ。んでその不倫相手が、今の照のお母さん。」

『……え？』

「桜乃さんは、照のお父さんと今のお母さんの子どもで……なんつーか、照のお父さん、照が生まれる前からずっと不倫してたんだよな、」

『……あ、あの、』

それって、いわゆる、異母兄弟って事？

しかも、ひかるさんのお父さんは内緒で不倫してた挙句、子どもまで作ってたって事？