独りぼっちの考え ページ13
とにかく走る、だが着いた時、あまりの静けさと悲しみが、そこにはあった。
何人もの付喪神が横たわっている。
その中に、居た。
胸の真ん中に大きな穴が空いている。
おそらくあの大きな角で刺されてしまったのだろう。
こんなに酷い傷なら、きっとあまり苦しまずにすぐ月へ還れたのだろう。
また独りぼっちだ。
父は怒った。息子を失った悲しみを自分で消化できないから他に当たっているだけだ。
母は悲しんだ。これは自然の摂理だったというのにまだ受け入れられていない。
こんな家にいる必要もない。一番森に近い物見小屋の柱に背を預け座る。
父も母も弱い。いいや俺も。いや皆。
なぜ今まで山の神を殺さなかった？
なんであんなに大切に思っていた命が消え、
あんなに疎ましく思っていた命がずっと永らえる?
命とは可笑しいものだ。残酷だ。
果たして俺の命には価値はあるか？
たった一人の弟さえ守れない俺のことなど大切に思う奴などいるのか?
ふと上を見ると、月が水上のもののように歪んてゆらゆら揺れていた。
すっと頬を水が流れていく。
雨とは似つかない温かさがあった。
矢「こんなことで泣く必要もないのに。」
自棄になっていたのは当然わかっている。
本当は誰かに慰めてもらいたかったことも。
誰かに話したくて、月のいるあの草原に足が向かっていることも。
月に今まで聞かなかったことを聞いてみた。
矢「あなたは本当は三日月何じゃないのですか？」
月「そうよ、あなたはやっと気づいたのね。」
月「まぁ正確に言うと、月そのものとは言いにくいかしら。」
その途端月さんが髪を解いた。
銀色の髪は予想よりずっと長く、まるで星のような輝きを持っていた。
月「正体を見破られたのなら去るしかないわ。」
あまりに急なことを言うので、俺は何も言えなかった。
自分に背を向け、だんだん離れて行く月さんに
矢「ま、待ってください！」
月さんの着物の袖を掴んだとき、そこから優しい光とともに、何かが飛び出した。
草原に潜り込み光ったものを見ると、それは月のような白くて穏やかな光を帯びた不思議な形の石があった。
あとからそれは月長石の勾玉であると知った。
それを後ろの矢筒に入れたときには月さんはいなかった。
かすかに、『三日月の…者…いま帰る』という声が聞こえた気がした。
話せなかった。
心の在り処なんてもうどこにもなかった。
がむしゃらに森まで走っていった。
何かに引っ張られている気がした。
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作者名：山岸ふあ | 作成日時：2020年4月14日 21時
