JK、大航海をする (ページ29)

今日:38 hit、昨日:6 hit、合計:166,692 hit

第28話ページ29

。

部屋に入ると俺の名を呼ぶ音彩

顔を覗き込めばスヤスヤと寝ていた

(俺が来るのを分かっていたのか)

なんてなぁ…偶然だろう

ふとテーブルを見れば蜂蜜酒の瓶が。ベックマンからの見舞い品だな

椅子に腰掛け、そのままじっと音彩の顔を見つめた

(似てるな…だが)

最初こそは似ているなと思っていたが。だが区別はちゃんとついている
勿論。比べたりなんてする気もない

ウタはウタ、音彩は音彩なのだから

ただ思い出が蘇らないかと言えばそうではない

脳裏にはウタをこの腕に抱いたことや、遊んだり叱ったり慰めたりなど

(もし島に置いていかなければ)

こういう時間を過ごしていたのかもしれないな

過ぎたことを思い返してもどうにもならないのはわかっているが

そう思わない日はない

「うう………」

「ん?」

ふいに唸り声をあげる音彩
どうした、悪夢でも見ているのか

「よーしよし」

頭を撫でてやれば、また静かに寝息を立て始める

「ははっやっぱりまだ子供なんだなぁ」

ウタにもやってやった事もあるし、ルフィにもやった事があったな
あの二人はよく“勝負”をしていたな。ウタも楽しそうにしていた

ふと音彩が船に乗った日の事を思い出す

余所余所しくして、少し怯えていた

『あの……本当に私乗ってて大丈夫なんですか?迷惑になったり、しないですか?』

不安そうな顔を未だに覚えている。どうしたらいいか分からない、どうすればいいかも分からない

そんな印象だった。だから俺は笑った

『かまやしねぇよ。居ていいんだ』

そう言った時の音彩は初めて安堵の表情をした

船に来ないかと誘った時、とても喜んでいた。
だが乗った後に不安になったんだろう

申し訳なさそうにしていた顔がとても幼く見えた

(だが今じゃあこれだもんなぁ)

今は俺たちに信頼を置いていると確信している
完全にと言わないかもしれないが、少なくとも今はちゃんと気も許してくれてはいるのだろう

だがな、音彩

お前が船に乗り、こうして居てくれることは

少なくとも。俺たちの傷を癒してくれている事にも繋がってはいるんだ

(助けられたのは俺たちも一緒なのかもしれないな)

重ねてない訳では無いが、彼女がいていつもと違う日常を過ごせているのはとても嬉しくて楽しいことなのだと

みんな口にはしないが思っている

「風邪が治ったら好きなところに連れてってやるか」

幼さを残す顔にそっと触れる
微熱を帯びた頬は、少し赤く染まっていた