第５９話 ページ9
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いつも通りのはずなのに、何故か今日は緊張する。
(今まで、こんな事なかったのに)
昨日は、いつもより眠れなかった。
今日は、いつもよりご飯が喉を通らなかった。
これが、私が初めて見に感じる【緊張】なんだろう。
「私が、毎月決まった日に、曲をあげている事をご存知の方がいらっしゃると思います。その理由は______________」
震える声。震える手。震える足。
私は、いつもより深めに息を吸い、その息で言葉を紡いだ。
「______________母が事故に巻き込まれた日、そして父が仕事に出てしばらく帰ってこなかった日……私たち家族を、引き裂いた日です」
空気が、重たいものになる。
それでも私は、その空気の中話を続けた。
「母は、不慮の交通事故に巻き込まれ、今でも意識不明で目を覚ましません。父は、それっきり、先日私が体調不良で入院するまで帰ってきませんでした」
今でも思い出すのは、全身に包帯を巻き、傷だらけで病院のベッドで眠る当時の母。
そして、その１ヶ月後に、仕事だからと言い、幼い私を置いて玄関のドアを開ける父の背中。
寂しかった。悲しかった。辛かった。
それでも______________
私は、両親の事が大好きだった。
「遠くにいる家族と、どうしても繋がっていたかった。そんな時に思いついたのが、歌でした」
両親は、私が歌えば褒めてくれ、そして笑顔を見せてくれた。
私の歌が大好きだと、言ってくれた。
「両親と私を繋げるためにあげた歌は、いつしか人と人を繋ぎ、沢山の境界を超え、沢山の方々が私を支えて下さっています」
その都度感じる、歌の素晴らしさ。
支えてくれる人のありがたさ。
音楽は、本当にすごい。
「皆さんにも、会いたくても会えない人、遠く離れた大切な人がいるはずです。私にとって、それは両親。この曲は、両親を想って作った曲ですが、例え両親に届いていなくても、誰かの大切な人を繋げてくれるものになれば、私はそれだけで幸せです」
大切な人と会えない寂しさを綴った曲。
この曲が、誰かの大切な人に届きますように。
「それでは、聴いてください______________」
曲の題名になっている形の月が、夜空を淡く照らしている。
そんな月を見上げ、深呼吸をすると、イントロのピアノの音が、この会場に響き渡った。
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作者名：水神友花 | 作成日時：2018年12月2日 23時
