第76話 ページ26
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柚季さんと家に帰りリビングに行けば、父と目が合う。
「おかえり、A」
「うん……」
気まずくなって、その場で突っ立ったままでいたら、柚季さんは私の背中を押して父の目の前に座らせ、自分は私の横に座った。
「義兄さん。Aちゃんに、何故今まで家を開けていたのか、教えてあげて下さい」
「分かってるよ」
「Aちゃんも、ちゃんと聞いてあげてね」
「はい」
ポンッと、1回背中を叩かれた私は、視線を上げて父の顔をしっかりと見る。
久しぶりにちゃんと見た彼の顔は、やつれて見えた。
「まずは、長年ずっと1人にさせてすまなかった。でも、決してお前達を嫌いになったわけでもないから、信じて欲しい。
母さんが入院してから、父さんの今までの稼ぎじゃ、今後が厳しくなると思った。
それを知った会社側が、海外の仕事を見つけてくれた。
給料も上がるし、これなら余裕を持って生活が出来ると思ったけれど、未知の海外に、小さなお前を連れていく訳にはいかなかった。
だから、お前を信頼出来る七瀬さんや橘さんに頼んで、仕事に出た。
すぐに帰る予定だったんだ。けれど、仕事が入る度にそれは厳しくなって……気付けば、こんなに長い年月が経っていたんだ」
最後に、父は「すまなかった」と謝り、深く深く頭を下げた。
初めて知った真実に、私は言葉が出なかった。
父が生活のために稼いで送ってくれたお金を使わなかった私は、父の努力を無駄にした。
恐らく、連絡も取れないくらい忙しなく働いてくれていたのに、酷いことを沢山言ってしまった。
(私……本当に最悪な娘だ)
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作者名:水神友花 | 作成日時:2018年12月2日 23時