第61話 ページ11
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「……分かってるでしょ、私が何を話そうとしてるか」
「……さぁな」
少しバツが悪そうに、彼は私から視線を逸らす。
モタモタしているのは嫌いなため、私は早速話を切り出した。
「私が倒れたあの時、助けてくれたでしょ。何で病院に来ないはずの貴方が、あの場所にいたの?」
ずっと、目の前にいる彼に聞きたかった。
私なりに、彼が病院に来ていた色々考えていた。
入院している際に、病院内を探索した事があったのだが、彼の親戚らしき人物の名前はなかった。
だとしたら、考えられるのは______
「故障だ」
「えっ……」
「俺は、肩を故障してるんだ」
彼の言葉に、私は唖然とした。
水泳選手にとって、肩は生命線。
専門がバッタの彼なら、なおのことだ。
「大丈夫なの?」
「俺は、やっと凛とリレーチームになれた。泳ぎたいんだ、あいつと。何としてでも」
彼にとって、凛はかけがえのない存在。
そんな彼とチームになれた事は、彼にとって誇らしく、何に変えてでも一緒に泳ぎ切りたいという気持ちが、ひしひしと伝わってきた。
私は何故か、今の彼を真っ直ぐ見れなくて、思わず目を逸らした。
「……私は、選手でもないし山崎自身じゃないから、何が正しいのか分からない。______________けど、自分の選択した事で、後悔だけはしないで欲しい」
そう言って、私はもう一度彼を真っ直ぐ見る。
少しお節介だと思われたかもしれない。口を挟むなと思われたかもしれない。
少し不安になっていると、彼はふっと笑った。
「後悔しないから、この選択だったんだ」
迷いのない、真っ直ぐな目。
彼は、本当に凛の事が大切なんだと、彼らの間に見えない絆を感じた。
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作者名:水神友花 | 作成日時:2018年12月2日 23時