4【欲の悪魔は黄色にあり】 ページ4
つう、と唇を指が伝う。そこから頬へ首へと指は下がっていく。うん、なんだ、普通の女であればこんな絶世の美青年に襲われているこの状況を決して逃しはしないのだろうが、生憎私は婚期にもタイミングにも嫌われた女である。つまり、正常な判断が一切出来ないのだ。
「退いてくれませんか」
一言。自分でも驚くほど温度のない冷たい声が出た。
彼の指も止まる。
「なんや、起きとったんか」
「最初から起きてましたよ」
ふうん、とつまらなそうにそう言って、彼はソファに寝転がる私に馬乗りになった。私の先程の言葉は聞いていなかったのだろうか。世間一般よりは軽いのだろうが、それでも確かな男の体重にぐえ、と呻いた。色気もクソもない声やな、もうちょい可愛く喘ぐとか出来ひんの、と彼が嗤った。
「まァ起きてんなら反応見れるしそれでええわ。寝てる相手襲うのも楽しないし、そのまま大人しくしといてや」
「──────はい？」
寝てる相手を襲うのも楽しくない？
残業終わりの頭は上手く動かない。何か今圧倒的な危機的状況に陥っている気がするのだけれど、身体も脳も何も働いてくれない。
ベストアンサーを漸く導き出した私は、早速それを実行に移す。そう、大きく息を吸って肺の中を満たして、
「誰か──────んぐッ！？」
私の叫びは続かなかった。
私の歯列と上顎を器用に舐めた彼が、苛ついたように舌打ちしながら唇を離した。
「大人しくせぇって言うたやん」
「は、」
「一応初めてっぽかったから優しくしてあげよう思ったんに。そういう馬鹿みたいな抵抗されるとさァ、」
俺、超興奮してまうんよね。
ぎらりと夜に反射した蜂蜜を溶かしたようなくりっとした瞳が光る。それはまるで人ならざるもののようで。
可愛らしかった顔つきは今や獰猛な肉食獣のそれだ。いや、本来の男の顔と呼ぶべきだろうか。何もしなければ喰われると、そんな事を処女の私に悟らせるくらいの、凶悪で甘美な何かを纏った表情。
これ、ヤバいわ。
そう思ったのとほぼ同時に、ソファから少し離れたベランダで烏が落ちてきたような、少し大きめの音が鳴った。その音に彼の手が止まる。もしかしなくてもこれはチャンス？だがしかし、反射神経がゴミ以下な所為で動けなかった。
なんとか目をベランダの方に向けると、そこには。
「なぁに、シャオちゃんったら夜這い？」
月のない夜を背に、その景色に甘く溶けるような藍色が笑っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2953人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まも。 - 語彙力が半端ない…好きすぎる。 (3月16日 18時) (
レス) @page20 id: f3d61cfa83 (このIDを非表示/違反報告)
にゃーちゃん - やばい…osmnが色気爆発し過ぎてて死ぬ…更新楽しみにしてます！ (2023年2月15日 21時) (レス) @page32 id: fd6863f2a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪乃 - 更新再会っ！頑張ってください！ (2022年8月20日 14時) (レス) @page32 id: c39d7e026e (このIDを非表示/違反報告)
じばくとっこうたい - お久しぶりです！この作品本当に大好きです。osさんっっと悶えてました。新作もすごく面白かったです！これからも応援しています！ (2022年2月23日 18時) (レス) @page32 id: 8209a7a990 (このIDを非表示/違反報告)
ネロ - 過去最高1位おめでとうございます！！前からでしたらすいません。気づいたので書き込ませていただきました。 (2021年9月12日 19時) (レス) id: 60a73795c6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
