11【一人が好き、独りは嫌】 ページ11
嗚呼それとも。
「お利口に待ったら、喰ってもええの？」
断じてそういう事ではない。
今にも彼の唇の端から涎が垂れてきそうで顔を顰める。先程のロボロと似たものを感じる距離の詰め方だが、言葉の端々から滲み出ている凶暴さで言ったらこの男の方が遥かに上だろう。それこそ本当に、殺されるのではないかと思うくらいに。
例えるなら、そう。
「狼、」
私の呟きはしっかりと彼の耳に届いたらしく、くふッと何かを含んだような笑いが私の隣に落ちた。その「何か」が殺意と劣情でない事を祈るしかない。彼は一頻り笑って、そして少し地に落ちたトーンで目を細めて、けれど底無しに甘ったるい声で吐息混じりに囁いた。
「狼なんて低俗な本能だけの生き物と一緒にされるのは心外やけどさあ、お前聞いたことないん？」
─────男は皆、狼やって。
ぎらりと光る鋭い牙が、笑みを形作る唇に沿って剥き出しになる。人間が一生感じる事の無い筈の「食べられる側」の感情が、じわじわと心を侵食する。気丈にキッと睨み付けた私から漏れた言葉は、「怖い」を必死に飲み込んで吐き捨てた言葉は随分と子供じみていた。
「離してください、────嫌いになりますよ」
彼の動きがぴたりと止まった。
暫し沈黙。
耐えきれずに何か言おうとした私の頬に落ちたのは、涎ではなく彼の透明な血液だった。喉まで出掛かっていた言葉が千切れて消えた。
「Aも、おれのこときらいになるん」
弱々しい声が頭上から降ってきた。顔を上げればそこにあったのは人懐っこい犬がしゅんと耳を下げているのを彷彿とさせる夢魔の姿で。寂しそうに微笑む彼の立派な牙はすっかり鳴りを潜めていた。ぽたぽたと彼の涙が垂れた場所が、むず痒く火照る。ずび、と鼻を小さく啜る音がした。
「いや、あの」
「ひとりに、せんといて、ずっといっしょにおって、」
ぽすっという軽い音と共にぐりぐりと押し付けられるふわふわの髪を撫でてやればいいのか突き放せばいいのか分からずに行き場を失った手だけが虚しく空を切った。仮にも先程まで私を押し倒して喰い殺そうとしていた男に、こんな簡単に慈悲を与えていいものなのか。
「嫌いにだけは、ならんといて」
「わ、わかりました」
しかしこいつも、夢魔と言えどもやはり悪魔で。
「言質取ったからな、A？」
未だに涙の滲む顔で、にやりと不敵に笑ってみせたそいつに嵌められたと気付くまで、時間はそう掛からなかった。
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まも。 - 語彙力が半端ない…好きすぎる。 (3月16日 18時) (
レス) @page20 id: f3d61cfa83 (このIDを非表示/違反報告)
にゃーちゃん - やばい…osmnが色気爆発し過ぎてて死ぬ…更新楽しみにしてます！ (2023年2月15日 21時) (レス) @page32 id: fd6863f2a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪乃 - 更新再会っ！頑張ってください！ (2022年8月20日 14時) (レス) @page32 id: c39d7e026e (このIDを非表示/違反報告)
じばくとっこうたい - お久しぶりです！この作品本当に大好きです。osさんっっと悶えてました。新作もすごく面白かったです！これからも応援しています！ (2022年2月23日 18時) (レス) @page32 id: 8209a7a990 (このIDを非表示/違反報告)
ネロ - 過去最高1位おめでとうございます！！前からでしたらすいません。気づいたので書き込ませていただきました。 (2021年9月12日 19時) (レス) id: 60a73795c6 (このIDを非表示/違反報告)
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