第陸話 ページ8
ポートマフィアのビルヂングに戻り、尾崎の所有する応接室に入ると、艶やかな着物に身を包んだ彼女はAを迎え入れた。
流れるような手際で淹れられた茶に礼を云って口をつける。
「それで、その子が電話の３８人殺しですか。
初めまして、ポートマフィア首領付き戦闘顧問、A 武郎です。お嬢さんのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか？」
「…………泉 鏡花。」
その名前を聞いて、Aは小さく頷いた。
戻り道で買ってきた羊羹を両者に勧めつつ、あぁ、なるほどと一つの仮説が浮かび上がる。
"泉 鏡花"の持つ異能力は"夜叉白雪"だ。
そしてかつてその"夜叉白雪"を使う凄腕エージェントがいた。
"超推理"を必要とするまでもなく、この齢１４の少女の身に起こったことは想像がついた。
「相変わらずAは小児には優しいのう。」
「誤解を生むような物云いはご遠慮いただきたいですね、尾崎さん。私は無垢で無欲な子供が好きなんです。手当たり次第、というわけでは断じてありませんよ。」
眉を上げて怒りをアピールするAに尾崎は優雅に口元を隠しながら笑い、茶菓子を緊張したままの泉へ分けてやる。
「泉さん、貴女の好きな食べ物は何ですか？」
尾崎と会話していたAから急に水を向けられ、泉は肩を震わせた。
「……湯豆府。」
「湯豆府ですか、それは善い。私、美味しいお店を知っているんです。今度一緒に行きましょうか。ね、尾崎さんもご一緒に如何でしょう。」
「それは善い提案じゃな、A。」
「中原君も梶井君も皆んな誘いましょう。ふふ、貸し切りにしなければなりませんね。」
室内を上品な笑い声が満たす。
その時だった。
叩扉の音と、失礼しますと云う断りとともに、黒服の構成員が現れる。
Aは茶を飲み干し、立ち上がった。
「済みません、尾崎さん。一寸用事が出来てしまいましたので、本日はこれで失礼します。」
「人虎の件じゃろ？ 構わん。人虎は目下、我らの最大の関心事じゃからの。」
「鏡花ちゃんも済みません。また今度、ゆっくりお話しましょうね。」
何度も謝罪の言葉を口にして退室すると、Aは傍の構成員へ目を向けた。
「それで、場所は何処ですか？」
続く
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作者名：０９ | 作成日時：2019年9月22日 15時
