第伍話 ページ6
「相場師!」
「違う。」
「作家!」
「はずれ!」
「サラリーマン!」
「はずれ。」
「研究職!」
「違ーう。」
「弁護士?」
「ノー!」
「新聞記者とか!」
「ブー。」
「大工さんだ!」
「ちがいまーす。」
賞金を聞き、目の色を変えた中嶋は出鱈目に職業を挙げ連ねるが、それらは全て太宰に一蹴される。
Aは紅茶を一口含んだ。
きっと当たりはしないのだろう。裏切りには徹底した制裁を下すポートマフィアの、しかも最年少幹部なんて前職を一発で当てられる人はかなり限られている。
一生懸命な中嶋の様子に、Aは笑い声を漏らして振り返った。
「ふふ。探偵社が一隅ではありませんが、私が手蔓を与えて差し上げましょうか?」
「えっ、……あーっ、あなたは先日の!」
「茶漬けは腹一杯いただけましたか、中嶋君。」
と、にっこり笑う。
「Aさん、太宰さんのお知り合いだったンですか?っていうかいつから戻ってきたンですか!?」
「こんにちは谷崎君。ご無沙汰していました。
それから、実は太宰君とはかなり長い付き合いなんですよ、ねぇ?」
「そうとも!Aさんと私は雨の日も風の日も、理不尽な戦いを数多乗り越えた、最早友という簡単な言葉では語れない仲なのだよ!あ、ついでに云うと、前職の職場はAさんと同じ処だヨ。」
するとまた中嶋が捲したてるようにくつか職業を挙げる。が、もちろん当たらない。
鷗外から支給された携帯が鳴った。
「もしもしーーーはい、分かりました。すぐに戻ります。」
それは尾崎からで、時間が空いたので今、可愛がっている女の子と会ってくれないかいうものだった。
「済みません、太宰君。恐縮なのですが、この菓子を与謝野さんに渡しておいていただけますか?」
「……お安い御用ですよ、Aさん。」
「優しい子で助かります。太宰君、貴方の行く道がどうか善きものでありますように。」
Aは太宰から差し出された手を握り返し、皿を拭いている女給に声を掛けた。
「私と彼らの分のお代をこれでお願いします。
お釣りは彼らの方へ。」
紅茶を冷ますために外していた手袋を付け、席を
立つとステッキを持ち帽子を被りなおす。
「それでは失礼します。中嶋君、挟み聞で申し訳ありませんが、ご就職おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます!」
「きちんとしたお祝いはまた今度。それから太宰君の前職はきっと、すぐに分かる事になりますよ。」
中嶋は目を瞬かせたが、Aは気に留めることなく、ゆったりと悪戯気な笑みを浮かべた。
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作者名:09 | 作成日時:2019年9月22日 15時