小さき者へ

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第肆話ページ5

悲しいことに、２年前に佐々城女史は死んでしまったらしい。
事件に巻き込まれてのことだという情報を聞き、Aは予定を変更し、白菊の花束を持ち墓参りへ向かった。

たった４年でこのヨコハマも大きく変わったらしい。

すでに棄教した身でありながら十字架に縋るのも愚かなことだと、頭の中で誰かが嗤うのを聞きながら、Aは佐々城の健やかな眠りを祈った。

気持ちを切り替えて、Aは菓子を携えて探偵社へ向かう。

「(場所が変わっていないと幸いなのですが……)」

しかしそんな不安に苛まれ、その前に探偵社の行きつけの喫茶店で、念を押しておくことにした。

可愛らしい従業員服の乙女に迎えられ、カウンター席につく。
紅茶とサンドウィッチを注文すると、ドアの鈴が新たな来客を知らせた。

「すンませんでしたッ！！」

「(！！？)」

椅子の音がしたと思えば、そんな大声。
Aは驚き、ソーサーには紅茶が跳ねた。

「あっ。あぁ、ありがとうございます。」

動転する様子もない完璧な笑顔の女給がサンドウィッチを運んでくる。
どうやら慣れたものらしい。

「(あれ、そういえばあの声。何処かで聞いたことがあるような……)」

思い出そうと頭を捻るが、一度見聞きしたことは忘れないAも、さすがに人の声を思い出すのは難しい。しかも、相手は４年以上前ときている。

「(何処でしたっけ……確か綾辻君もいたような……)」

逆さ吊り、燻製。
……そうだ、思い出した。谷崎潤一郎。異能力者で、やたら楽しそうな綾辻に吊り上げられていた、探偵社の人間だ。

Aがすっきりした気持ちになっている間も、青年らの会話は続く。
昨日会った彼ーー中嶋と、太宰と谷崎。それとその妹のナオミと国木田。
善人の彼は本日、武装探偵社の入社試験に挑み、そして美事、合格を果たしたということらしい。

ふっと椅子を引く音がして、カウンターに影が差す。

「Aさん、見て下さい彼女のあの細い手。
あれで首を絞められたのなら、屹度、天にも昇る心地でしょうね。あぁ、一度でいいから首を絞めてくれないかなー。」

「それも善いですが、私なら心中は誰にも邪魔されないところで共に首を括りたいですね。しかし梅雨の時期は駄目ですが。もう、すぐに死体に蛆が沸いて大変なことになってしまいますからね。」

可笑しそうに笑うAに、太宰は目を細めた。
背後では中嶋が前職当てゲエムをしている。
この中の誰も、きっと信じないだろう。
何年も交流のあるこの温厚な紳士然とした彼が、ポートマフィアの重役だということなど。

太宰は１人、ほくそ笑んだ。