もう戻れない、夢の中の日 ページ29
●
●
●
●
夢を見ていた。
まだ家族が4人揃っていて、姉も家出していなくて、父も失踪する前の、裕福なこと以外は普通の家族。
私たちが珍しく全員揃ってディナーを楽しんでいた。
でも今は4人、みんなバラバラだ。
姉は家出先に、その一ヶ月後に失踪した父は...もうこの世にいないかもしれない。
唯一繋がっていた私と母も、この夏休み中は離れている。
私たち家族が全員揃うなんてもうニ度とないと思っていた。
でも、夢で会えた。
それが嬉しかった。
●
●
浅い眠りから目覚めると、そこはサクライの家だった。
なんで松本という男の家にいないんだろう。
松本に襲われかけて体が重くなって...そこから先は覚えていない。
松本にされたことを思い出して身震いする。
そういえば...あの後に着替えてない。
起き上がると頭痛がして、目眩まで襲ってきた。
「A？」
名前を呼ばれて数センチ飛び上がる。
「さ、サクライ！」
そうだ。この家の持ち主は彼なんだから、いて当然。いないと逆に驚く。
「もう...大丈夫か」
「え、何が？」
ばつが悪そうなサクライにキョトンとする。
「は！？熱に決まってるだろ。いきなり倒れたってアイツが...」
「ああ、熱出して倒れたのか！」
ここ最近、病気になることがなかったから熱の感覚を忘れていた。
「なんだよ、ずいぶん元気そうじゃん...」
心配して損した、と言いそうな雰囲気だったので、枕を投げつける。
「ぅぐっ！」
くぐもった呻き声。
「な、何すんだよ！」
「え、別に」
「別にじゃねぇだろ！」
そういえばオオノはどこだろう。
ふと気になって問うと「もう夜の8時過ぎてんだ。サカナクンたちに餌の時間だろ」
ああ...。そういえば彼は芸も愛嬌もないペットを溺愛してるんだった。
「風呂入るか？着替えさせるのは無理だったから、濡れた服のままなんだけど」
どうやら私のディナーらしいお粥をお盆で持ってくるサクライ。
自分の服装を見ると、確かに白いワンピースのままだった。さすがにもう乾いていたけど。
「んー...。風呂は後でいいや」
というのも、熱がまた上がってきたから。
熱で目が潤んでいるのがわかる。
そんな私をサクライは見逃さず「熱が上がってきただろ？さっさと寝ろ」と言って布団をかけてくれた。
減らず口を叩く余裕もないので素直に従う。
サクライの髪から、シャンプーの甘い匂いが漂ってきた。
●
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 13人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黄昏水晶 | 作成日時：2014年6月29日 9時
