7.Mom ページ10
しかし、それは夕食後のことだった。
「A」
『！ ……どうしたの、ママ？』
廊下に誰もいないタイミングで、ママに話しかけられた。そして、私は笑顔で返事をした。伊達に5年間過ごしていない。“A”になる前よりも、取り繕うのが上手くなった気がする。
「……あなた、昨日門へ行ったでしょう？」
『え？ 行ったのはママとコニーだけでしょ？』
「……これが門に」
と、ママが差し出したのは、私の髪飾りだった。落とした……？ これは、数年前に“姉”が手作りしてくれた、オリジナルの髪飾りだ。誤魔化しなんて効かない……。
私、バカだ……。リトルバーニーを持って帰っても、こんな証拠残してるんじゃ、何の意味も──
いや、これだけならまだ、私だけ行ったことに出来る？
『……ママ、ごめんなさい！』
正直に謝ると、ママは少し驚いた。隠そうとすると思ってたのかな。
『リトルバーニーを忘れてたから……すぐに届けたくて……レイには止められたんだけど、振り切って1人で行っちゃったの。車の中も、見た。……私も殺すの？』
大丈夫かな、出荷されないよね……？ というか、出任せに喋ってたらレイを巻き込んじゃった……。
「あのね、A。私は本当にあなたたちのことを愛しているわ。それこそ我が子のように」
『う、うん』
「だから、ここで幸せに暮らして欲しいのよ。苦しみの無いこの場所で家族と生きて、何も知らずに死ぬ。不幸なんて何処にもない一生よ」
『まぁ、確かに……』
「だから……」
ママは私に近付いて来た。そして、手を取って顔を近づける。
「もしあなたが、ここから逃げようとしているのなら……諦めなさい」
『は、い……』
考える前に返事をしてしまうほど、怖かった。
話が終わり、部屋を出ようとすると、「他の子に話しちゃダメよ」と釘を刺された。でも、私に注意を向けさせることは、成功したと言えるかもしれない。
Mom ―ママ―
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作者名：時雨 | 作成日時：2022年6月22日 22時
