44.Execution ページ47
作戦のために、エマとレイの発信機は壊さずに取り出す必要があったが、私のは必要ない。みんなと同じようにレイの作った機械で壊し、私たちは一足先に塀へ走った。そして、しばらくしてエマと合流し、ロープを使って塀を登った。でも、その時……
*****
『……？』
「A、どうした？」
気が付くと、わたしは細い道の上を走っていた。
((いや、これ塀か……))
「……あ、お前、A……ええと、ややこしいな。左利きの方のAか？」
レイのその呼び分け方に少し笑ってしまった。
『──うん、そう』
「状況はわかるか？」
『決行でしょ？ 大丈夫』
そう返事をしてみんなを追いかけようと走り出したが、レイは苦笑いして言った。
「そっか、そういやお前は運動苦手だったな……」
と言って、わたしの手を持った。引っ張りながら走ってくれるみたいだ。遠回しに、足遅いって言われた……。
しばらく走ると、サイレンが鳴り響いた。
「どうする！？ まだ橋まで全然遠いぞ」
「問題ない。元々橋へ向かうつもりはない。ここから対岸に渡る」
『え……。まぁ確かに、他の場所よりは距離短そうだけど』
2人は、下見のときに渡れそうな場所も探しておいたらしい。
そして、ドンはその器用さと身体能力で、トーマとラニは工作好きを発揮した装置を使って、対岸へロープを渡らせた。このロープを、ハンガーを使って滑り降りるらしい。
「大丈夫か？」
『“もう1人のわたし”が動いてた分で、体力とかはあるから、何とかなるとは思う……』
「そうか──」
「どうしよう……手が……！ ごめんなさい、下が崖だって思ったら……！」
ジェミマが、いざ渡るとなって怖くなってしまったらしい。下が見えない程の崖が見えているのだから、地面に近い場所での練習のようにいかないのも当然だ。
「大丈夫だ、ジェミマ。一緒に渡ろう」
意外にも、そう言ったのはレイだった。もう、死のうとは思っていないみたいだ。
((よかった。もう、誰か死んじゃうのは嫌だよ……))
「A、次行ける？」
『うん』
ハンガーを構え、塀の端に立つ。暗さも相まって、先は見えないけど、行かなくちゃ。そして、わたしは地面を蹴った。
落下しているような感覚が怖くて目をつぶってしまったが、誰かに支えられる感覚で岸に着いたのだとわかった。
Execution ―決行―
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作者名：時雨 | 作成日時：2022年6月22日 22時
