75話:やばいかも ページ29
「いいよ、そんなことに気を遣わなくて。拾ってくれてありがと」
じゃあ私もう行くね、と立ち去りかけて、私はふと振り返った。
「今から当番に行くの?」
「はい」
「善法寺さんいるけど、大丈夫?」
私の言葉に意外そうに目をまたたいた川西君が、へにゃりと眉尻を下げる。
「……はい。Aさんが天女様の間は前みたいにはならないと思います。それに伊作先輩、何度も天女様に騙されちゃうような困った人ですけど、悪い人じゃないって知ってますから」
だから、大丈夫です。
芯の強い瞳を弓状にキュッと細めて、川西君が優しい笑みを浮かべる。
「君は強いね。……本当に偉いよ」
私は思わず屈んで彼の身体を抱きしめた。
傷つけられても尚、伊作さんのことも、私のことも信じようとする強さが眩しくて、嬉しくて。
「だって僕は、僕は伊作先輩が──」
「左近!」
涙で滲んで小さく震える声で何かを言いかけた川西君を、切迫詰まったような叫び声が遮る。
一体なんだ、と振り返りかけた私の肩を、大きな手が掴んで引き倒した。
「へわっ!?」
……何事!?
ごろん、と川西君ごと後ろ向きに転がりかけた私から、その手の主は川西君をべりっと剥がして抱き上げる。
「Aちゃん、左近に何したの?」
「ほえ?」
意味がわからない。
何するのか聞きたいのはこちらの方である。
しゃがみ込んでいたおかげで大した被害はなかったけれど、引き倒されたせいで打ち付けた頭とおしりがジンジンと痛む。
「左近が泣いてるじゃないか! 僕らに興味を示さなかった時点でそうかもとは思ってたけど、やっぱり少年趣味だったんだね!」
川西君をそっと床に下ろし自分の背に隠した伊作さんが、懐から苦無を出して私に切っ先を突きつける。
……
非常に心外である。
上級生を見ても大した反応をしなかったせいでそんな容疑がかけられるとは思ってもみなかった。
私が愛するのは本。ほしいのも本だ。
ショタコン認定なんていらない。
「違いますよ! というか、学園長先生の許可なく私を殺しちゃダメなんじゃないんですか!?」
「問答無用! お咎めは後で受ける!」
怒りからか赤く目を光らせた伊作さんが苦無を振りかぶる。
いよいよまずい、と一歩下がった私の前に、小さな影が躍り出た。
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わそ姉大好きリスナー - Ahoy 学校行きたくねェェェェェェ 続編に出航〜♪ (2023年1月25日 9時) (レス) id: 888b3d648c (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます!忍たまって鬼滅並みに難読苗字多いですよね笑。尼子先生の出身地の尼崎の地名から取っているそうなのですけれど、私も最初は漢字と読みがなかなか一致しなくて困りました。食満は初見じゃ絶対に読めないと断言できますよね! (2022年8月12日 19時) (レス) id: 23eb6548af (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - マジで夢主ちゃんに同感です。食満って名字、最初は「しょくまん」って読んでしまいますよね。私もアニメで聞くまでしょくまんだと思ってました! (2022年8月12日 19時) (レス) @page19 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2022年4月28日 21時