-6年 2人の家 1 ページ15
「ごめん、A。別れてほしい」
私が景光君からそう切り出されたのは、研二君が爆発事故で死んでから一年と少しが経った、冬の初めのことだった。
二人で選んで買ったダイニングテーブルの上で、お揃いのマグカップの中から湯気が上がるのをぼんやりと見つめながら、私は彼の言葉をきちんと理解しようと口の中で転がす。
別れる、ということは、つまり恋人関係をやめるということで。
恋人でなくなるということは、一緒にいられなくなるということで。
それはつまり、別れるということで。
「……な、なんで?」
混乱する口から思わず漏れ出た言葉に、景光君が困ったように笑いながら俯く。
そのつむじを眺めているうちにだんだんと彼の言葉が私の中で形になり始めた。
突然何を言いだすのだ、と問い詰めたいのを抑えて、私は顔に笑みを貼り付ける。
「私、何かしちゃった? 私のこと、もう嫌いになっちゃったかな」
「違っ……」
ごめんね、と小さく謝ると、彼はハッとしたように勢いよく顔を上げた。
うっすらと透明な膜が張られた、青に似た灰色の瞳と視線が合う。
それは彼にとってこの別れが本意ではないのだと雄弁に語っていて。
私には、それだけで十分だった。
十分すぎると思った。
この別れが上からの命令で、逃れられないものなのだとすれば、それはきっと仕方がないことなのだ。
それに、きちんと私に言いに来てくれるだなんて、彼らしいではないか。
これが例えば景光君の親友の降谷君だったとしたら、相手を愛していようがなんだろうが、むしろ愛しているからこそ、事前予告も何もなくある日突然姿を消した上での音信不通でジ・エンドだろう。
時に鬼にもなれるその非情さが、彼の美点であり優秀さの理由なのだから。
けれど、殴られる覚悟で私に別れを告げに来た景光君の優しさに、私は恋をした。
ならば私は優しい彼を、優しいままでいられるようにしなければ。
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真白(プロフ) - シンヤさん» わ〜!ありがとうございます!デートシーンを書くのに時間がかかっているせいで更新亀さんですが、良ければこれからもよろしくお願いします! (11月15日 20時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
シンヤ(プロフ) - 続きとても楽しみにしています🥰 (11月15日 0時) (レス) @page12 id: 42d6be6a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2023年9月13日 17時