-7年 11月初旬、深夜 3 ページ13
「あっ、ちょっとやだ吸わないでください?」
「やだ」
「やだじゃないの! あーもうこの酔っ払い力強いな!?」
唇を尖らせたまま不服なのを隠そうともせずに私が抱きしめられていると、再度深い溜息を吐いた景光君が、私の匂いを勢いよく吸い始める。
嗅ぐ、なんて可愛らしい表現ではとても形容できないような勢いだ。
そう、これはあれ。
連日の残業で疲れ果てた一人暮らしのOLが家に帰って猫様のお腹を全力で吸ってる時のあれ。
私は猫じゃないんだけどな。
「ねぇ、A」
「……どうしたの?」
しばらくジタバタと景光君の拘束から抜け出そうとしていた私は、聞こえてきた彼の声が思いの外静かだったことに驚いて動きを止める。
「一緒に住まない?」
一瞬、世界中から音が消えたような心地がした。
すぐ後ろを大きなトラックが走り去って行って、その音でそれが現実なのだと理解できる。
ゆっくりと、味わうようにその言葉を咀嚼する私に、彼が少し不安そうに口を開いた。
「ごめん、嫌だったらいいんだ。でも、最近会えてなくて寂しかったし、少しでも長く一緒にいたいなって思って……」
「嫌じゃない!」
パッと私から離れると途端にしどろもどろになって言い訳を重ねだした景光君に、私は慌ててそう言った。
嫌じゃない。
むしろ嬉しくて、夢見心地になって、まるで現実ではないような気がして。
「違うの、私も、寂しかったから。一緒の家で、景光君と一緒に暮らしたいなって思ってたから、すごく嬉しい」
不安だったのだ。
卒業してから、景光君は明らかに忙しくなった。
どこの部署に配属されたのかは聞いていないけれど、きっとあそこなのだろうなという目星はついている。
警察官に危険は付き物だ。
いつどうなるかわからないのならば、できるだけ側にいたい。
ぎゅっと彼の服の裾を掴んで私が言うと、景光君はぱちりと目を瞬かせて、再び私を抱き寄せる。
「ごめんな、A。寂しい思いさせて」
「ううん。……一緒に、いてくれるだけで私は十分だから」
しばらくして、目が覚めて私達がいないことに気がついたらしい陣平君が駄々っ子のように鬼電をしてくるまで、私達はただ静かに空を眺めていた。
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真白(プロフ) - シンヤさん» わ〜!ありがとうございます!デートシーンを書くのに時間がかかっているせいで更新亀さんですが、良ければこれからもよろしくお願いします! (11月15日 20時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
シンヤ(プロフ) - 続きとても楽しみにしています🥰 (11月15日 0時) (レス) @page12 id: 42d6be6a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2023年9月13日 17時