-7年 11月初旬、深夜 2 ページ12
「ん、A。寒い?」
まだ十一月の頭だというのに、人通りのない夜の街を吹き抜ける風はすっかり冬のものに変わっているらしい。
私が小さく肩を震わせていると、暖を取るように一歩こちらに近づいた景光君が私の様子を窺うように見下ろしてきた。
「ううん、大丈……へっくしゅ」
「もう、全然大丈夫じゃないみたいだけど?」
呆れたように笑う景光君が、繋いでいた手を優しく離す。
心地よいぬくもりの消えた左手をじっと見つめて唇を尖らせていると、温かい何かがクスクスという笑い声と共にそっと掛けられた。
「それ着てて? 少しは寒くなくなると思うから」
「ありがとう」
景光君の羽織っていたスプリングコートに袖を通すと、普段はあまり意識していない体格差を嫌でも意識せざるを得なくなって、なんだか少し恥ずかしい。
「景光君のだと、ちょっとおっきいね」
照れ隠しをするように袖の余った両手を口元にやってへらりと笑うと、ぱちり、とゆっくり瞬きをした景光君が前から覆い隠すように抱きしめてくる。
そのまま私の首筋に顔を埋めると、彼は肺の空気が全てなくなるのではないかと思うくらいに長く深い溜息を吐いた。
「A」
「なあに?」
景光君が顔を動かす度に、彼の細いサラサラの髪が頬に当たってくすぐったい。
逃れるように身を捩ると、離さないと言わんばかりに背中に回わる腕に力がこめられた。
「オレ以外に、そういうことしちゃダメだよ」
この人は一体何を言っているのだろうか。
景光君が貸してくれたコートだから着るのである。
景光君にだから大人しく抱きしめられているのだ。
他の人になんて同じことをさせるわけがないのに。
拗ねたような目でじとりと見つめられて、私はむむむと小さく唸る。
やっぱ可愛いなこの人。
ここまで可愛さが天元突破している警察官なんて他にいるだろうか。
いや、いない。
「……わかった」
「絶対わかってないよね」
こてりと首を傾げつつ頷くと、「可愛いなこの酔っ払いめ」と肩口に頭をぐりぐり押し付けられる。
重ね重ね言わせてもらうけれど、可愛いのも酔っぱらっているのも私ではなく景光君の方だ。
間違いない。
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真白(プロフ) - シンヤさん» わ〜!ありがとうございます!デートシーンを書くのに時間がかかっているせいで更新亀さんですが、良ければこれからもよろしくお願いします! (11月15日 20時) (レス) id: f022b78e83 (このIDを非表示/違反報告)
シンヤ(プロフ) - 続きとても楽しみにしています🥰 (11月15日 0時) (レス) @page12 id: 42d6be6a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2023年9月13日 17時