私は私を探している ページ15
個室を出て、手洗い場の前に立つ。
ボサボサの髪の女が情け無い顔でそこに映っていて、ハッと自嘲気味に笑う。
顔も、髪型も、身長も、どれを取っても昔の私とは違う。
けれど、彼がこれから話す相手として求めているのは、一回目の私だろう。
せめて髪型だけでも近づけようと、私は食べやすいようにゴムで一つにまとめていた髪を解いて、手櫛で整えた。
……私は誰なんだろう。
ジャーと流れる水に手を突っ込むと、その冷たさに一瞬顔を歪める。
このまま顔を洗えたらスッキリして気持ちいいだろうな、と思うけれど、化粧のやり直しができないことに気づいて自重する。
私は自分がAAだと思っている。
いや、思っていた。
けれど、今朝これまでの二回の人生の記憶を取り戻してしまって、陣平と美和ちゃんから昔の名で呼ばれてしまった私は、もうAAでもなかった。
三人の私、そのどれでもない私が宙ぶらりんになって彷徨っている。
着地点を見つけたいのに見つけられなくて、私は深く溜息を吐いた。
「もう、わかんないよ……」
小さく呟く私の後ろを、OL風のお姉さんが一瞬怪訝そうな顔をしながら通っていく。
彼女をやり過ごしてもう一度見た鏡には、相変わらず酷い顔色の女が頼りなさげに映っていた。
「お待たせ」
「おう」
席に戻ると、所在なさげにそわそわとしていた陣平がホッとしたように小さく笑う。
「松田さん……陣平って呼んだ方がいい?」
静かに問うと、こくりと縦に首を振られる。
「座れよ」
ーー。
昔の名前を呼ばれて、私も一つ頷いた。
ここでの今からの私は、陣平の彼女だった一回目の私だ。
ならばきちんと話して、彼を私から解放しなければ。
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作者名:真白 | 作成日時:2023年2月5日 0時