38話:『すみません、よくわかりません』 ページ40
……逃げられた。
目覚めて早々に見えた天井に私は悪態を吐く。
そこは意識を手放す直前にいたはずの廊下などではなく、昨日与えられたばかりの自室の布団の上だった。
時刻は午前五時三十分。
目覚ましもかけていないのに独りでに起きてしまったのは、昨晩寝たのが九時よりも前だったからか。
部屋の外から呑気に聞こえてくる鳥の鳴き声が、異様に気に障る。
だが、今度はお腹が痛いというわけでもなく、体調自体はすこぶる良い。
もらった薬のおかげなのだろう。
そこまで考えると、自然にその薬をくれた人物の顔も思い浮かぶ。
よく覚えていないけれど、仙蔵さんによって昏倒させられたのは間違いないはずだ。
首の後ろの微かな痛みが、それを証明してくれている。
自分にとって都合が悪くなったら会話を強制終了だなんて仙蔵さんも案外子供なんだな、と何かに言い訳をするように私は心の中で呟いた。
そういうわけではないことくらい、何かに傷ついたようなあの顔を見ればわかるのだけれど。
葡萄色の忍び装束に着替えた私は、ここに来て以降、時刻の確認以外の用途で使っていなかった携帯に手を伸ばした。
……朝礼に行く前に、少しでも忍たま達の情報を持っていた方がいいよね。
生き延びるためには、まず相手のことを知らなければならないだろう。
何も知らないまま殺されてしまうのはまっぴらごめんだ。
私の記憶の中の忍術学園はこことは比べ物にならないくらい穏やかな場所だったから、ネット上の情報などあてにならない気もするが。
慣れた手つきでロックを解除し、ブラウザを開こうとアイコンをタップする。
『インターネットに接続していません』
……やっぱそうか。
案の定というか、なんというか。
室町時代でインターネットが接続するはずもなく、画面には青色で接続不可の文字が表示された。
結局私は、予備知識ゼロの状態で彼らと接しなければならないらしい。
……いいもん。下手に忍たまのことを知ってても、天女サマ扱いされる確率が上がるだけだし。
今後この携帯は、アラームやタイマーの面で活躍してくれるのだろう。
本来の機能がほとんど使い物にならなくなったそれを乱雑に鞄の中に放り込んだ時、トントンと部屋の戸がノックされた。
108人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
魚月(プロフ) - 小桜さん» わかります!めちゃくちゃあるあるですね!ありがとうございます。参考にさせていただきます! (2022年3月29日 20時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 魚月さん» そうなんです! 私も本大好きなんですよ〜。私の場合は、途中まで読んだ本を栞を挟んだりするんじゃなくて、開いたまま伏せて置くのが許せません! 型が残ってしまうので。……これは結構あるあるなんじゃないかな〜って思ってます! (2022年3月28日 22時) (レス) id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - (続き)夢主ちゃんを究極の本好きにするため、本好きの友人達から「本好きあるある」を募って書いています。私はこうだな、というのがありましたら、ぜひ教えてくださいね! (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます! 夢主ちゃんと気が合いそうとは、小桜さんもなかなかの本好きですね。……実は作者もです笑。 (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - ヤバい……夢主ちゃんの言うことめっちゃ分かる……!! この子とは気が合いそうです! とても面白く、続きが楽しみです。更新頑張って下さい! (2022年3月28日 7時) (レス) @page19 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:真白 | 作成日時:2022年3月15日 9時