2話:誘拐犯 ページ4
「何?」
こんな森の中にいるのは何だ。
熊か。狼か。猪か。
だんだんと大きくなるその音に警戒して、私が一歩後退った時。
「動くな」
突然背後から鋭い刃物を首筋に当てられ、私はひぅっと息を呑む。
……音、前の方からしてたじゃん。なんで後ろから来るの。
とにかく今は後ろの男を刺激しない方がいいだろう。
私が降参の意を示すべく両腕を上げると、周囲から他にも男がわらわらと出てきた。
「お前は天女か?」
切長の目をした茶筅髷の男が、私に向かってそう言った。
「天女……って、何ですか」
少なくとも私は天女ではない。
なる予定もない。
将来はできれば司書か何かになって、一日中本に囲まれて暮らすと決めているただの女子高生である。
「ほう、天女を自称するわけではない、と……」
知的なサラストポニーテール男が考え込むように口元に手を当てて呟いた。
どうでもいいけど、この人見た目のキャラクター私と被ってるね。
「こいつが天女だろうと天女でなかろうと、俺達は学園に連れて行かなければならんのだ。とにかく行くぞ」
背後にいた男はそう言うと、私をガッと肩の上に担ぎ上げた。
……誘拐されるっ!?
こいつらの言う学園、がどんな場所を示すのかわからないけれど、大人しく連れて行かれるわけにもいかないだろう。
男の腕から逃れようとジタバタしてみたが、ガッシリと私のお腹を抱えた男はびくともしない。
……これ、真剣にまずくない?
どうせ連れていかれるなら少しでも状況を有利にしよう、と私は視線だけで周囲を見回す。
茂みの影に見慣れた鞄が落ちているのを見て、私は声を上げた。
「か、鞄っ……!」
「ん? これか?」
髪がわしゃわしゃの男が気づいて鞄を拾い上げる。
その扱いの雑さに私は思わず悲鳴を上げた。
「中に本が入ってるんです! そんな雑に扱わないでください!」
ただでさえこの雨でぐちょぐちょになっているかもしれないのに、と私が言うと、その横にいた頬に傷のある男がわしゃ髪男に近づく。
「小平太、渡せ。……開けても?」
確認するようにこちらを見る男に、私はこくりと頷いた。
わしゃ髪男──小平太(本を雑に扱ったため敬称は付けない)に触られるよりはまだマシな気がする。
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魚月(プロフ) - 小桜さん» わかります!めちゃくちゃあるあるですね!ありがとうございます。参考にさせていただきます! (2022年3月29日 20時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 魚月さん» そうなんです! 私も本大好きなんですよ〜。私の場合は、途中まで読んだ本を栞を挟んだりするんじゃなくて、開いたまま伏せて置くのが許せません! 型が残ってしまうので。……これは結構あるあるなんじゃないかな〜って思ってます! (2022年3月28日 22時) (レス) id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - (続き)夢主ちゃんを究極の本好きにするため、本好きの友人達から「本好きあるある」を募って書いています。私はこうだな、というのがありましたら、ぜひ教えてくださいね! (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます! 夢主ちゃんと気が合いそうとは、小桜さんもなかなかの本好きですね。……実は作者もです笑。 (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - ヤバい……夢主ちゃんの言うことめっちゃ分かる……!! この子とは気が合いそうです! とても面白く、続きが楽しみです。更新頑張って下さい! (2022年3月28日 7時) (レス) @page19 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2022年3月15日 9時