18話:悪臭 ページ20
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
……このおばあちゃま、歩くの速い。
学園長先生の庵から無言でひたすら歩いていく山本先生を、私は早足で追いかけていた。
私は息が切れてきているのに、彼女は汗一つかいていない。
ほんわかとした外見とは裏腹に、なかなかパワフルな方である。
「さぁ、天女様。こちらが貴女のお部屋ですよ」
学園の隅にある庵から二つほど先の棟に入ってすぐのところにある部屋が私の部屋だった。
着きました、と振り返った山本先生は、私を見て「あら？」と目をまたたく。
「……ちゃんとついてきてるのね」
「え？ な、なんておっしゃいましたか？」
ぜえぜえと荒い呼吸を整えていると、先生が小さく何か呟いた。
慌てて聞き返すも、彼女はゆるゆると首を振る。
「いいえ、なんでもございません。お気になさらないでくださいませ」
ね、とおっとり笑顔で言われ、私も釣られて笑顔で頷く。
「改めまして、天女様。こちらへどうぞ」
山本先生が開けてくれた木戸から私は中を覗き込んだ。
長机が一つある以外は、何も無い質素な部屋だ。
当然のことながら電気はないけれど、奥に明かり取り用の窓があるため十分明るい。
本を読むのに不自由はしなさそうだ。
だが、そんな考えは部屋の中に足を踏み入れた途端に消え去った。
……何、この臭い！
むわっと部屋中に充満している甘ったるい臭いに、私は思わず鼻を押さえる。
何種類もの香水の匂いが混ざり合っていて、嗅覚がおかしくなりそうだ。
例えるならばそう、体育の後の女子更衣室の臭い。
単体でならいい匂いでも、混ざったらアウトなやつである。
「……ここは、前の天女様も使っていたお部屋ですか」
「えぇ、そうですよ。……何かお気に障りましたか？ 他のお部屋が良いでしょうか」
できれば変えてもらいたかったけれど、不安そうにこちらの顔色を伺ってくる山本先生にハッとする。
ここで部屋を変えろと言えば、私も前の天女のような我儘娘だと思われるのではないだろうか。
そんな報告が学園長先生のところに行けば、と考えて、私はひぃっと息を呑む。
……お部屋チェンジはダメだね。一発で首と身体がバイバイしちゃう。
ここの本を読むまでは、私はまだ死ぬわけにはいかないのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 108人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
魚月(プロフ) - 小桜さん» わかります！めちゃくちゃあるあるですね！ありがとうございます。参考にさせていただきます！ (2022年3月29日 20時) (
レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 魚月さん» そうなんです！ 私も本大好きなんですよ〜。私の場合は、途中まで読んだ本を栞を挟んだりするんじゃなくて、開いたまま伏せて置くのが許せません！ 型が残ってしまうので。……これは結構あるあるなんじゃないかな〜って思ってます！ (2022年3月28日 22時) (レス) id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - （続き）夢主ちゃんを究極の本好きにするため、本好きの友人達から「本好きあるある」を募って書いています。私はこうだな、というのがありましたら、ぜひ教えてくださいね！ (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます！ 夢主ちゃんと気が合いそうとは、小桜さんもなかなかの本好きですね。……実は作者もです笑。 (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - ヤバい……夢主ちゃんの言うことめっちゃ分かる……！！ この子とは気が合いそうです！ とても面白く、続きが楽しみです。更新頑張って下さい！ (2022年3月28日 7時) (レス) @page19 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：真白 | 作成日時：2022年3月15日 9時
